1 研究概要
1.1 研究背景
世界の航空需要は経済の発展に伴って増加の一途を辿っている。この傾向は衰える様子はなく、特にアジア太平洋地域における航空需要は今後ますます大きな伸びが予想されているIATAの需要予測によれば、世界の航空旅客数は西暦2010年には1995年の2倍以上が見込まれ、アジア太平洋地域における旅客数の伸びは3倍に近くなると見られている。当然のことながら、これに伴って運航便数についても同様の増大が見込まれている。
一方で現行の航空交通管制システムは、第二次世界大戦終了時にはすでに実現化されていたHF通信、レーダーによる監視、在来航法機器や、その後まもなく登場したIRSなどを拠り所としており、現在の通信・航法・監視のツールでは今後の航空需要の増大に対応する余力は残っていないのが現状である。
このような状況に対してICAO(国際民間航空機関)においては、上述のような課題を世界的規模で解決するため、人工衛星やデータ通信の新技術を利用した新しい航空交通管理のあり方について、1983年から検討が進められ、1991年の第10回航空会議(ANC1)において、正式にFANS2構想が承認された。
このFANS構想は、衛星を利用して航空機の位置を継続的に知らせる自動従属監視やデータ通信で行なわれる管制通信等、より具体的な機能として整理され、近年においては、CNS/ATM3と呼ばれている。
航空機メーカーにおいても、B747-400を初めとして、B777,MD11等、その開発に勢力を注ぎ、CNS/ATMシステムに対応しようとしている。
南太平洋の空域では、1995年から既にそのシステムの導入を図り、運用が開始されており、わが国においても北太平洋空域における導入の早期実現を目指して、関係当局並びに諸外国の関係機関と調整を図りながらシステムの開発が進められ、1997年10月から東京管制部洋上管制空域において特定の航空会社を対象に「ADSトライアル」として実運用に向けたトライアルが開始されている。
このように、FANS構想は、地上と機上のシステムが一体となった新しい航空交通管理の総合システムととて、世界的規模で整備されつつある。
CNS/ATMシステムは、世界中のいかなる地域にあっても一定水準以上の航空保安サービスを提供することが求められている。そのためには、現在、開発されているB747-400のFANS1機器ならびにインマルサット衛星等を利用した通信網等、これらの機能・性能等を十分に検討・評価し、将来導入されるわが国の本格システムの参考とするとともに実運用に向けた評価を行うことが必要と考えられ、これを調査するものである。
1 ANC: Air Navigation Committee
2 FANS: Future Air Navigation System
3 CNS/ATM : Communication Navigation Surveillance/Air Traffic Management