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外」ではなくどんな人に対しても行なうものです。キリスト教の隣人愛という考え方がベースにあると思いますが、われわれにはなかなか分かりにくいのです。

そこで、われわれが「洋魂」をそのまま受けとめてフィランソロピーをするのか、あるいは日本の魂を維持してフィランソロピーということができるのか、というものすごく大きな問題があるように思います。ただし大事なのは、今までの「外国から孤立した大和魂」というのは全然意味を持たないということです。「世界とつながる日本の魂」を持ち得るのかどうか、そのための大事な要素として、フィランソロピーがあるというふうに考えたらいいのではないかと私は思っています。

出口 私は、日本でも伝統的にはフィランソロピーの意識が非常に高かったのではないか、それが落ちてきたのは近代以降のある一時的なことであり、今これを議論することは日本の伝統を取り戻すことだと考えられるのではないかと思います。

アメリカのフィランソロピーは年間一五〇〇ドル以上、 一七、八兆円になりますが、そのうち企業が占める割合は五%しかありません。日本の場合は税制上の問題などがあって、大体年間五〇〇〇億円ぐらいの寄付しかないのですが、そのうち九割が企業からのものです。個人は四〇〇億円程度ですが、税制上の優遇措置を受けた人は八万人ほどしかいません。今さまざまなNPOのニーズがあるなか、民間の資金を入れるにはどうしたらいいかというのを議論しないといけない。

樋口 日本の寄付は今どんどんといいほうに変わってきているといえると思います。メセナ協議会には、一日に約七〇名の方が寄付のお願いに来られます。その際、審議のひとつの目安として、寄付申請をされる組織の人が余暇を使ってアルバイトをしてまで資金工面をしているものから選ぶことにしています。志が高ければ高いほど、行動も伴わないと上手くいかない。例えば京都大学では、篤志の活動をする場合総長が最初に年収の四分の一を出されています。すると、職員も後に続く。そういう傾向は高まってきていますね。

 

個人の思いを支援する

 

山下 改めて日本のフィランソロピーにおける企業の参加について考えると、その歴史は極めて短いと思います。私は一九八五年から八年間アメリカに滞在しました。アメリカで事業を展開する企業が留意するべき点を聞いた際、私が一番わからなかった言葉がフィランソロピーだったのです。特にアメリカ人が強調したのは「よき企業市民」という言葉、いわゆるグッド・コーポレート・シチズンでした。新しい会社が事業をする際、まずはその地域の一員として活動し、地域の発展に貢献してくれというわけです。

この活動の原点が個人にあることは当然ですが、その一方で日本の場合は「イエ」という伝統があります。私は思い切って日本的な「よき企業市民」という概念をつくり出すことが必要ではないかと思います。個が確立している欧米のシステムはそれとして、日本人が最も信頼する「イエ」や「擬似イエ」など、日本的組織の特徴をもっと生かした参加のシステムを広く認知し定着していく動きが必要ではないかと思います。

世古 私は個々の市民のエンパワメント、市民参加という観点から話します。咋年、 一昨年の朝日新聞の調査では、ボランティアをやりたい人は六〇%くらいいました。何らかの形で社会に貢献したい人はとても多いのです。しかし、やりたい対象がはっきりしてい

 

 

 

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