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分は正しいことをしている」という発想がベースにあると、その結果他者を認めないことになるような気がします。

私は市民団体の人たちに資金づくりの方法に関するレクチャーをするとき、必ず「正義に頼るのではなく、交換という発想に慣れましょう」と話します。「交換」というふうに考えないと、他のセクターとの議論はできなくなってしまう。交換は効果で考える発想法、正義というのは動機なのです。動機と効果をごっちゃにするから話がややこしくなる。

だから、企業が儲けるためのイメージアップで社会貢献したとしても、そのことによって市民団体に資金が集まる、と考えたらいい。逆に言うと、市民団体の側は社会貢献に熱心な企業が儲かるように、消費行動を組織していくことを考えたらいいのではないか。現実に、そういうことがシステムとしてコーズリレーテッド・マーケティングという方法で具体化しています。例えばジャパンエコロジーセンターとダイエー系のクレジット会社では、クレジットカードで物を買うとその〇・五%をどこかに寄付するという仕組みを作っています。一般的に考えれば、会社が三%ぐらいの粗利のうち○・五%を出すわけですから、利益が六分の五に減って損をしますね。ところが、あのカードは一・四倍売れているんです。消費も増えている。だから逆に粗利が五分の七倍増えるわけですね。

 

フィランソロピーの原点はどこに

 

茂木 フィランソロピーは、非常に個に関わりのある問題だと理解しています。本当の意味での個の確立というのは、自分の個を大事にすると同時に他人の個を大事にし、社会全体を大事にしていくところにフィランソロピーの原点があるのではないか。

言い方を変えると、連帯意識が大事なのではないかと思います。ついこの間、ショッキングな弁護士夫人刺殺事件というのがありました。新聞などによると、夕方、そのお宅のブザーが鳴って、奥さまが出ていったところを犯人に刺されてしまった。そのときの悲鳴を近所の人が聞いているにもかかわらず、夜の一二時にご主人が帰ってくるまで、息絶えた奥様は五時間も放っておかれた。これは大変なことなんですね。残念ながら昔と比べると、日本人の連帯意識が希薄になっているのではないか。個ないしはプライバシーというものを大事にしながら、なおかつ強烈な連帯意識を持った社会が望ましいことだろうと思いますが。

鷲頭 最近は日本人も個やゆとりを大切にしはじめているという話もありますので、ご紹介します。

それは旅行の分野です。最近は団体旅行が減る一方で家族や仲間同士での旅行が増えてきました。そこで、旅館の経営が大変傾いてきております。これまでは大手旅行会社に頼んで団体旅行をとってもらい、部屋を埋めるというパターンに頼り、自分で営業努力をしてこなかった。ですから今は、旅館側も個人に対してどうやってセールスプロモーションをしようかと悩んでいます。JR東日本などもトレンタくんという安いレンタカーを商品としてつくり出したり、旅行会社もパック旅行だけではなくて個人の体験を通して満足させる商品を開発しています。

小島 情けという言葉を歴史的に考えてみると、日本の姿は変わったと感じます。「情けは人のためならず」ということわざを今の若い者に聞きますと、全く逆の意味になるんですね。

だんな、という概念も明治以降なくなって

 

 

 

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