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のは、基本的には一人一票の原理、資本主義というのはお金の原理です。現在の日本社会は、あまりにもお金の原理に支配され過ぎているのではないか。

最近、特にヨーロッパの動向で参考になるのが、一人一票の経済システムをつくろうという動きです。エコノミーソシアルと言われるものですが、具体的には協同組合や共済組合、あるいはNPOといったものをもっと重要視していこうという動きです。私は日本でもそうしたシステムをもっと強化する必要があると考えます。一人一票のシステムで経済の動きがうまく機能するわけがない。そこで必要とされるのは市場経済による資源の配分ではなく無償の資源の配分です。これが労働を無償で提供するボランティア活動であり、資金を無償で提供するフィランソロピーであるわけです。

日本の場合は、あまりにも国家権力による資源配分というものが強力過ぎる。もう少し個人の意思による資源配分、すなわちフィランソロピーというのを充実していかなくてはいけない。経済学者のボールディングが「愛と恐怖の経済』という本で、租税のシステムは恐怖のシステムで、フィランソロピーは愛のシステムである、と言っています。その愛のシステムをどのように日本の資本主義経済の中に組み込んでいくか、システム論として議論しなくてはいけないのではないかと思います。

樋口 先ほど、税制面でNPOの受け入れ体制が整っていないという発言がありましたが、その点に関連して言いますと、私は二つの団体に携わっております。

一つは経団連の一%クラブで、四百何十社の加盟企業に利益の最低一%をどこかに寄付していただくというものです。出していただいた寄付については免税されることになっています。もう一つはメセナ協議会で、今、約七〇〇ぐらいの企業が入っております。税務署とも折衝しまして、ここに寄付された方は税金を払わなくていいことになっています。

ただ、われわれ企業の側からいうと株主代表訴訟の問題が非常に大きい。どんなフィランソロピーをするにしても説明がつかなければなりません。例えば京都に美術館を建てるとしても、「樋口さんは京都生まれだから、美術館を建てて故郷に錦を飾ろうとしているのではないか」といった批判をいただくようでは困ります。「知事からの依頼があったからです」といった経緯や理由を明らかにし、株主に納得していただくシステムを考える責任が、われわれにはあると思います。

早瀬 「福は内、鬼は外」のことわざからうかがえるように、日本人は身内に対しては支え合う感覚があるが、外に出ると非常に構えるんですね。ボランティアなどもそうですが、その構えから理屈が必要になってくる。そのときに何を持ち出すかというと、「正義」なんですね。すると、それをわかってくれない人たちに対して被害者意識を持ちながら頑張るということになったり、感情的な物言いや態度が増えて、全体が見えなくなってしまいます。

阪神大震災のとき、救援活動によって、かえって被災地の復興を遅らせたという面もありました。一生懸命復興しようとしている現地のお店への影響を考えず、店舗のすぐ隣で無料の炊き出しをする。ボランティアに「自

 

 

 

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