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テーマ(3)フィランソロピー育成のために社会システムに求めるもの

 

寄付金税制の重要性

 

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今田 忠(阪神・淡路コミュニティ基金代表)

 

現代アメリカ語のフィランソロピーとは、公共の利益のために財産もしくは時間を自発的に提供することを意味している。ボランティア活動をフィランソロピーに含める場合もあるが、ここでは資金の問題に限って論じたい。日本語にすれば「民間公益活動支援」である。国や地方公共団体に対して寄付をすることもフィランソロピーではあるが、日本でフィランソロピーを論ずるにあたっては「民間性」こそが重要である。

フィランソロピーは多様な価値観に基づく多元主義社会を前提としている。公共の利益のために財産を提供するに際しては、「寄付」という形で自己決定を行うことが求められるため、フィランソロピー育成のための社会システムとして最も重要なものは寄付金税制である。これについては、「税」という形で公共の利益のために財産を提供し、その金額も配分方法も権力機構に委ねるというシステムとの対比で考えなければならない。

権力機構に決定を委ねると言っても、民主主義国家では市民が選出した議員が議会で決定するのであるから、市民の意思は反映されてはいるものの、自己決定はかなり間接的なものになる。しかも日本では、議会制民主主義とは言いながら、実質的には税の徴収方法や配分決定について大蔵官僚の意向が強く働いているため、自己決定の要素は乏しい。

現在の寄付金税制の中心である特定公益増進法人制度では、主務官庁と大蔵省が公益制の認定をしており、これでは多元主義社会は実現しない。フィランソロピー育成のためには、特定公益増進法人制度そのものを変更し、寄付金控除の対象となる団体の範囲を整理拡大しなければならないのだが、そのためには公益性・非営利性について詳細な基準を設けなければならない。また、その際に公益性の認定を誰が行うのかということも大問題である。アメリカでは寄付金控除の対象団体の幅が広く数が多いことは確かであるが、その基準について税法に細かい規定があり、厳しい罰則があることも留意しなければならない。

フィランソロピー育成は、日本の社会にとって革命に近い社会変革を意味している。憲法・民法を含め、現行法体系の大改正を伴う大仕事になるであろう。

 

 

 

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