清木克男(財団法人地球産業文化研究所専務理事)
NPOの活動範囲は極めて多様だが、ここでは私が従事している政策研究NPOへの期待に焦点を合わせる。現在の日本社会で最も欠けているのは、有効な政策論争である。しかし現状は、政党間の論争はともすれば政争になりがちで、産業界は論争を惹起することを回避しがちである。官界は自信喪失状態、学界を中心とする論壇はあるが、政府批判のものが多く、政策構想を体系的に述べようとするものは多くない。かつてのような自民党、官僚、経団連が政策決定過程をほぼ独占していた仕組みは崩れつつあるが、それに代わる新しいソリッドな仕組みづくりが遅れているため、今日の日本は大きな混乱に直面しているのである。
日本の政策形成過程をよりしっかりしたものにしていく上で期待されているのが、政策研究NPOである。しかし日本での政策研究NPOは、現時点では非常に微力な存在である(野村総研をはじめとする企業系政策研究機関は、定義上NPOに含まれない)。米国でこの分野を代表する国際経済研究所のBergsten所長は、この種のNPOが成功するためには、(1)multi-year fundingを持つこと(2)少数精鋭のprofessional staffを持つこと(3)発信すべきコンセプトを持つこと(4)政府等の国内の政策決定主体と密接な連携を持つこと(5)国際的ネットワークを持つこと、等の特長が必要であるとする。
日本ではphilanthropic組織の絶対数が少なく、且つ資金量も米国の六〇分の一程度であるため、multi-year fundingの可能性は高くない。proofessional staffについては、官界、大学がほとんど吸収しており、NPOにavailableな人材層は極めて薄い。日本の政策研究NPOは、政府にその政策決定のための基本データを供給することを目的とする伝統があり、独自に政策提案をする意欲に欠けがちであった。他方、政府はこれまで自らを最強のシンクタンクと位置付けており、将来、政策形成過程でライバルとなりうる政策研究NPOの政策提言に耳を貸す態度を持たなかった。更には、国際的政策ネットワークの形成については??顔のない日本?≠ニいう言葉に象徴されるように、日本の官民ともども最も苦手とする分野であった。
Bergstenのいう特長を日本のNPOが備えるには、日本の制度的背景にはいろいろな分野で障害があったと言える。これらの障害を克服し、NPOの政策形成過程での役割を強化することが重要であるが、日本の諸制度incentiveやcoordination等のメカニズム、税制や政府とNPOの関係等)を、いきなり米国と同じようなものにすることは実際的に不可能であろうし、あまり効果的なものとも思えない。最近の制度分析学派の言うように、 一つの制度は他のいくつかの制度と補完的でもあり、その発展の方向は歴史的経路にも依存する。日本のNPOは、独自の強調的な役割を模索する必要があるかもしれない。
数年前に自民党長期政権が崩壊して連立政権が発足した時、米国からの期待も寄せられて、政策研究NPOの役割強化の気運が盛り上がった。その後この気運はしぼんだように見えたが、今回のNPO法成立で再び盛り返しつつある。国内外のNPOが協力し合って、ビジョンと戦略を作り上げることが今日の急務である。