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「心の投票」の受け手としてのNPO

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出口正之(国立総合研究大学院大学教育研究交流センター教授)

 

NPOの多様な活動と、それに対する寄付・ボランティアの関係は、公共的な気持ちを表現するという意味で投票行為によく似ている。フィランソロピーがNPOに向けて真に自発的に向けられた時、それはNPO活動に対する賛意と支持を表している、といっていいだろう。「足による投票」という用語を、地方公共財のパレート最適を求める方法として使ったのはティポーであった。人の移動が完全に自由でコストがかからないとすると、地方自治体による公共財の供給に対して人々は「足による投票」を行うことができる。それを繰り返していけば、地方公共財のパレート最適が達成される、との考え方である。ここでも投票は、賛意と支持という意味で使われている。

米国人のモーレス(道徳的姿勢)を「心の習慣」と呼んだのはアレクシス・ド・トクビルである。トクビルはNPOに関する社会科学的な記述をおそらく最初にした人物であろう。米国におけるNPOの活動を見て、それを知的並びに、道徳的団体と表現し、「フランスでは政府が、イギリスでは大領主が必ず先頭に立つが、アメリカでは必ずこのような団体が先導的立場に立つ」と述べた。「心の習慣」という言葉は、現代では米国のボランタリー・スピリットを示す言葉としてよく使われている。

選挙における投票率の低下は甚だしい。投票の際に人や政党に丸をつけてみても、どれほどの政治的な賛意や支持が示せるのか虚無感に襲われる人も多いに違いない。より具体的な活動目標を掲げるNPOに対する、自発的な寄付やボランティアは、公共的関心を示す数少ない指標となりうるだろう。これは、人々の公共的な賛意と支持を示すものとして「心の投票」と呼べるかもしれない。

NPOが「心の投票」の対象となるには、NPOにしっかりとしたアカウンタビリティが必要である。さらに寄付金控除制度が整備されれば、市民は「税か寄付か」の選択ができる。政府のライバルとしてのNPO、第三の力としてのNPOに期待するのは、「心の投票」の対象となりうる人々からの強い信頼である。

 

 

 

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