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義務教育の撤廃から始まる教育改革

 

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三枝成彰(作曲家)

 

義務教育の撤廃こそ、新しい教育を作るために必要不可欠だとぼくは考えている。

公的な機関による義務教育制度というものは一九世紀末に確立したもので、一定の読み書き計算能力と国民意識=愛国心をもった勤労国民を育成するという時代の要請によって、システムが整えられてきたものだ。

多様性を持った豊かな個性を伸ばす教育を目指すならば、生半可な対症療法などではとても間に合わない。義務教育を撤廃した後に、それまでの公的な機関による教育に加えて、それらに代わりうるようないろいろな教育上の選択肢が作られるべきなのである。

現在の日本の義務教育制度では、小学生で年間七五万円、中学生では年間八四万円を行政が負担している。いっそこの金を家庭に給付し、生徒や親の希望する学校に行かせたらどうだろう。公立でも私立の学校でもいい、通信教育でもいい、また親や知り合いが教えてもいい。私塾であってもかまわない。ただし公的に検定制度を設けて、一定のレベルに達しないとお金を払わないようにする、という最低限度のシステムは必要であろうが。

現在、アメリカで注目されている革命的な「新しい学校」がある。チャータースクールというのがそれだ。このチャータースクールとは、教師や父母、地域住民が、公的な権限を付与された開設認可者(機関)の権威あるチャーター(特許状)に基づき、新たな学校を創設したり、既存の学校を転換させていくものだ。

またチャータースクールは、子どもたちの学力の向上に責任を持つ。チャータースクールのチャーター(特許状)には、その学校でより深く学べる学習の分野が明確にされている。子どもの学力向上に責任を持つかわりに、公立学校を縛っている制限や規制から逃れる自由があるのだ。そして財政はふつうの公立学校と同じで、生徒一人当たりが受け取る公的資金は普通の公立学校と変わりがない。

このチャータースクールによって、子どもたちの学力が向上し、それまでの学校が抱えていた諸問題、特に社会的人種的マイノリティの問題といった、なかなか解決しそうにないと思われていた問題も、明るい方向へと転換しはじめるなど、学校という場に新しい風が吹き出しているのである。一九九一年には一つもなかったチャータースクールだが、九六年には約三〇〇ものチャータースクールが全米で活動している。こういった教育改革を起こせるアメリカという国と市民一人ひとりの力に驚くと同時に、果たしてこういった改革が日本でも成し遂げられるだろうか、と思う。

 

 

 

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