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てやるのが大切だと思いますね。

樋口 そうですね。阪神・淡路大震災では、私のところは家族を含めて三三名が亡くなりました。怪我をした者もたくさんいました。西宮や姫路にある工場もずい分被害を受けました。そのため、私も被災者のお見舞いのために最終の新幹線で何度も現地を訪れたのです。

神戸に向かう途中も、到着してからも大勢の若いボランティアに会ったのですが、「これは凄いな、毎週来ているんですか」とそのうちの一人に聞いたんです。「いや、毎週は来られませんよ。毎週来てたら、やっぱり参ってしまうときがある」という返事でした。「それじゃ、先週はどこへ行っていたんですか」と聞くと、「信州へスキーに行った」と言うのです。つまり、ボランティアと仕事とスキーが一人の若者の中に同居しているわけです。彼らは肩ひじを張らずにボランティアをし、かといってそれにのめり込んでしまって他のことを一切しないということでもない。これが、多様性ということですよ。

加藤 大変、えらいことですね。

樋口 それから、西宮の辺りにいる私どもの職員には、とにかく「被災者のお見舞いに回りなさい」と言いました。まだ火災が起こっているときに、「行きなさい」と。何が起こるかわからないわけですから、彼らははじめ怖がるんです。それでも、「とりあえず寮から出て歩きなさい。一軒でも二軒でもいいから、別にお酒屋さんに限らず、『大丈夫ですか』とお見舞いをしてらっしゃい」と言う。すると、新入生がすぐに反応を示しまして、一度行きだしたらどんどん行くんですよ。これこそ、型にはまった「教育」というものよりも、いっぺん動きなさいということの大切さだと思います。

土野 きっかけですね。

加藤 それは、冒頭におっしゃった「山谷」のお話とも重なるところがありますね。実際に動いて現場に行ってみると、人間というのは何か発見があるんですよ。そこで自己変革が起きますよね。

土野 そういうきっかけを、システム化して作るということが大事ですね。

 

寄付は心持ちが大切

 

土野 企業とフィランソロピーの関係に戻りますが、樋口さんは経団連で一%クラブということをやっていらっしゃいますね。九五年の統計を見ると、約四〇〇社が一五〇〇億円分のいろいろな社会貢献をしている。これは数字的には上昇しているんでしょうか。

樋口 少なくとも増えてはいます。私はずっと一%クラブの幹事をやっていまして、全国を回ってるんです。主旨としては、「皆さんの会社で経常利益でも、営業利益でもかまいませんが、そのうち最低一%を出してください。寄付の対象は候補として四〇〇と数十社ありますが、中身は問いません。その報告だけください」ということなんです。

土野 景気の悪い今の状態ではどうですか。

 

 

 

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