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大瀬戸町松島地区における医療費の推移と今後の予測

―診療実績をもとに―

 

  長崎県・大瀬戸町国保松島診療所

  湊 健児

 

要旨

今日,急速に進む高齢化社会において,増え続ける医療費が大きな問題となってきている。当診療所に赴任するにあたり,なるべく1件あたりの医療費を上げないようにして,件数を伸ばすことによって,医療収入を確保するように努力してきた。初年度(H.4)に大きく件数を伸ばしたものの,その後は漸減傾向にある。この間,件当点はH.3年度を下回る水準を維持してきたが,件数の伸びに限界が見え始め,今後は医療費の伸びは期待しにくくなっている。特に老人医療費は,島内の高齢化率の進行とは裏腹に,絶対数に大きな伸びが見られず,件当点が現水準で推移するならば,医療費に大きな影響はないものと考えられた。町の国保の状況をみると,老人医療の件数,件当点ともに,年々上昇しており,老人以外の件数は減少しているものの件当点は上昇を続けており,今後も医療費は上昇を続けてゆくものと考えられた。

 

I. はじめに

急速に進む高齢化社会にあって,それに伴う医療費の増大が大きな問題としてとり上げられ,その抑制を目的として,様々な施策が講じられてきている。平成9年9月からは,老人医療や健保本人の自己負担増や薬剤費徴収などといった受診抑制策も強化されている。

医療の進歩や思考の要求の多様化,また医療機関の増加等が様々に絡みあい,とりわけ人口の急速な高齢化が,医療費の増大に拍車をかけてきた。

5年前,当診療所に赴任するにあたり考慮したのは,医療費を上げずに(特に国保の負担を軽く)かつ医療経営を維持ないしは発展させたいということであった。具体的には,件当点を抑えながら件数(特に社保)を伸ばすことに力点を置いてきた。

今回,当診療所の実績と,町国保の医療費の推移を分析し,島の医療と町の国保の今後について検討したので報告する。

 

II. 当診療所の概要

当診療所は,長崎県大瀬戸町の沖合約1キロに位置する松島地区の無床診である。現在医師(内科医)1名,看護婦2名,事務1名の4名体制で運営している。医療機器は心電図,腹部エコー,レントゲン単純撮影装置等で,血液検査はすべて外注で行っている。島には当診療所だけで,本町のほうに国保診療所1(無床),開業医5(無床3,有床2)となっている。二次医療機関は,本町から車で約20分の隣町に100床規模の民間病院があるが,それ以外は長崎市内か佐世保市内へ車で1〜1時間半の距離である。

診療所は午前は外来が主で,午後は往診と健診を中心に行い,夜間救急は,診療所の隣の宿舎に滞在する医師と,島内在住の看護婦が対応し,民間の搬送船を利用している。

 

 

 

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