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しかし病態の軽重の差はあれ,どの家族にとっても在宅での介護は大きな負担になっている。

そのような状況は全国共通のものと考えられるが,一般的にはそれを支える大きな力の一つが,平成4年から制度化された訪問看護である。しかし訪問看護制度は,まだ地域によりその普及度には格差がある。訪問看護ステーションの事業所は平成9年5月現在,全国合わせて2002ヵ所あるが,岩手県内では13ヵ所しかなく,平成9年5月現在,65歳以上の人口10万あたりの施設数も4.9ヵ所と,全国でも最も低い県の一つである2)。普代村はもちろん,久慈医療圏全体でも県立久慈病院が実施している退院者への訪問看護活動以外,訪問看護制度の導入はまだ予定に無い。

 

II これまでの診療所の在宅療養者への取り組み

そのような状況での医療行為を要する在宅療養者への診療所の役割としてはこれまで,往診という形で関わってきた。緊急の継続的でない往診と区別してこれを定期的往診と呼べば,昭和63年度から平成8年度までの過去10年間の定期的往診の対象人数と延回数はグラフのようになる(図2)。

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すなわち,年度で往診対象者の数を区切り,その延べ往診回数をあわせてグラフ化した。全員生活自立度はBl,B2,Cl,C2に含まれる3)。年々,対象者も往診回数もわずかではあるが増える傾向にある。平成2年度だけが突出して14人が対象となっているが,この増加は明らかな要因はなく,脳卒中による寝たきりで経管栄養を要する患者が一時的に増えたことによる。

昨年度の平成8年度の実績では,10人の対象者に延べ65回往診している。その内訳は脳梗塞後の寝たきりが1人,末期癌が2人,リウマチによる寝たきりが1人,その他の6人は老齢による衰弱で寝たきりとなった高齢者であった。往診の内容は,褥瘡の処置や経口摂取不良による点滴の施行が主であった。末期癌の2人はそれぞれ総胆管癌と胆嚢癌の手術非適応の2例で,週に1度PTCDチューブ,PTGBDチューブの洗浄に往診した(表1)。そして平成9年9月現在では,3人の在宅療養者に対して定期的な往診を行っている(表2)。

それら当院のこれまでの定期的往診活動の問題点のひとつとして,1人に対する往診回数が急性期の場合を除き,1ヶ月あたり1回程度になり,往診から往診の間は,医療側として家族からの連絡がない限り,患者の情報を得ることがなかったという点が挙げられる。つまり他の福祉サービスとの連携がなかったので,たとえホームヘルパーの訪問対象に入っていても,情報のやり取りもなく,現在各地域で行われている医療,福祉,行政が一体となった活動ではなかった。

 

III 村内の福祉サービスと在宅療養者との関わり

しかし医療,福祉,行政とも,それぞれの立場ではより良い高齢者の生活環境を作りあげるべく努力してきた。ことに当村は,福祉サービスに関して言えばスタッフの積極的な活動もあり,在宅福祉3本柱であるホームヘルパー,デイサービス,ショートステイの年間利用日数が65歳以上人口あたり県内で最も多くなっている。

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