当診療所の往診では,思考が移送できそうであれば,往診車に患者を乗せて当診療所に移送して診療を行うこともある。緊急性が高い場合や,重症の場合,患者が入院を希望する場合などは,往診先より救急車を依頼し,救急車到着するまでの間,点滴など必要な処置を行い,そのまま救急病院など入院可能な医療機関へ搬送している。
C. 往診先での医療
往診先では診療の制約が多いことから,なるべく必要最小限とされる医療行為のみを行うことにしているが,重症で現時点で早急に治療を要するような症例には,往診先でも積極的に治療を行っている。当診療所で行った,現場での検査,処置は前にも述べたが,当診療所外来と比べると現場でできなかった検査は,レントゲン検査とエコー検査などで,処置は一般外来とそれほどかわるものではなく,現場でもかなりの医療行為が可能と思われた。
近年医療機器ポータブル化が進み,在宅医療に大きく貢献している。当診療所でも,先に述べたごとく持ち運び可能な医療機器類はほとんど往診時持参している。心電計も現場に持ち込むことで,即座の診断治療も可能である。実際現場での心電図検査で,心筋梗塞1例,上室性頻拍症2例を診断し頻拍症は患者を現場で治療しえた。患者監視モニターは現場での患者管理上極めて有用で,マンパワー不足をある程度解消する働きもある。
とりわけへき地でも心肺停止愚者に対して,早期に気道確保,心肺蘇生術が行えるということが,へき地における緊急往診の第一目的であり,最も効果を発揮しえる場面でもあろう。
D. 医師不在時の対応
医師一人体制の診療所で,最も問題となるのは医師不在時の対応である。学会や休日などの外出時,当地区は無医地区となる。その対策として代診医など依頼できるところは良いが,当市は財政難のため不可能である。
医師不在時の解決策の一つとして,不在時診療所にかかってきた電話を自己所有の携帯電話に転送させることとしたが,結局他院に受診するように指示することが多く,それほど効果的とは思えなかった。また患者の病名,投薬内容,最近のおおまかな経過内容など記した病診連携カードなるものを作成し老人に所有させているが,効果がでているとは思えない。
やはり医師一人体制の診療所で救急医療に取り組むのは,この点が限界であろう。休日急患が発生し,医師不在のためにその患者や家族が困り,やむなく救急車を呼んだ,などとあとで聞くと心が痛む。医師一人体制の診療所のむなしさを感じることもしばしばである。
まとめ
へき地で救急患者が発生した場合は,地域医療機関が緊急往診などの現場診療体制も含めて対処することが重要と思われる。
緊急往診における現場での診療は制約も多いが,装備しだいでかなりの医療行為も可能と思われた。
医師一人体制の診療所では,救急患者に対する24時間体制は難しく,この点が限界でもある。
参考文献
1) 救急医療,災害医療:WIBA'96:578:1997
2) 塩野茂,寺田浩明,当麻美樹,他:プレホスピタルケアにおけるドクターカーの役割:日救急医会誌5:458:1994.
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