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救急車到着時には,昇圧剤などでなんとか血圧を90mmHg以上に上昇させることができた。そのまま最寄りの救急病院に搬送,頭部CTにてくも膜下出血を認めた。患者は蘇生には成功したが,そのまま脳死状態となった。

 

症例3

患者 22歳男性

主訴 交通事故による意識不明

土曜日の夕方,近くの砂浜で家族とキャンプをしていると,救急車のサイレン音が聞こえた。消防署に連絡してみると車が崖から転落し,運転手などの状況不明ということであった。すぐに診療所に帰り,往診車にて一人で現場に急行した。現場は約10mの崖下で,あたりはもう暗く下の様子は上からはわからなかった。とりあえず気道確保と輸液のセットを持ち消防署員の案内で崖下に降りた。車は大破しておりその横の岩の上で救急隊員が患者に心肺蘇生を行っていた。周囲は真っ暗で懐中電灯の明かりのみで診察を行うが,すでに心肺停止状態であった。気管内挿管をし,気管内よりエピネフリン投与心肺蘇生を続けた。救急隊員に人工呼吸を依頼し,ルート確保を試みたが,末梢血管が虚脱しており,懐中電灯の明かりのみでは結局ルートは確保できなかった。側背部には大きな裂傷があり胸腔が開いていた。約1時間後クレーン車が到着し,患者を引き上げた。望みをかけてそのまま心肺蘇生を行いながら救急病院に搬送したが心拍の再開は得られなかった。現場は車両通行不可能区域であり,さらに夜間で思うような現場医療を行なえなかった。今後の新たな課題となった。

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IV 結果

A. 年齢性別

緊急往診は全往診107例中19例であり高齢者が多かった。一般往診と緊急往診を比較すると,一般往診は,独居老人や交通手段を持たない患者が多かったのに対して,緊急往診では,動かせないような状態によるものが多かった(表1)。

B. 緊急往診時間帯

緊急往診の時間帯であるが,診療時間内が11例,時間外が8例であった。時間内の出動は医師1名看護婦1〜2名で行い,時間外の場合はほとんど医師1名での出動であった。

C. 覚知の手段

覚知の手段としては,家族からの電話によるものが最も多く,救急隊から連絡を受けた例は,地区外の住民や他院かかりつけの患者が多かった。その他の症例では,家族の者が直接迎えにきたという例である。

覚知から現場到着までの時間は,正確には計測していないが,10分前後が最も多く,最長でも15分であったと思われる(表2)。

D. 往診時主訴

往診時主訴と最終診断を対比した。現着時死亡の3例はいずれも死後時間があまりたっていないと思われ,現場で心肺蘇生などなんらかの医療行為をおこなったものを対象としている。それらの最終診断は,検視の結果,交通事故による肺挫傷による出血性ショック1例(前述),階段からの転落による頚椎骨折1例,急性心不全1例であった。

発作性頻拍症の症例は,動悸が強く,呼吸困難症状もあったので緊急往診とした。

めまいによる往診依頼はめずらしいものではないが,本例でのめまいは突発性に激しいめまいが出現し,動けないという状態で脳出血なども疑われ緊急往診として含めた。

緊急往診19例のうち,心肺停止状態にて気管内挿管を含む心肺蘇生を行ったものは8例であった。残念ながらその8例すべてが一ヵ月以内に死亡している(表3)。

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