日本財団 図書館


II 対象

当診療所は開院以来,やむなく医師不在の場合以外時間の如何を問わず,すべての診察,往診依頼に応えてきた。

今回は平成7年4月の開院から平成8年3月までの満2年間の往診症例全107例のうち緊急往診の症例19例を対象とした。

「医科点数表の解釈」によると緊急往診は,患者またはその看護に当たっている者からの訴えにより,速やかに往診しなければならないと判断した場合をいい,急性心筋梗塞,脳血管障害,急性腹症等が想定されるものとある。今回この基準によって緊急往診と判断された症例を対象とした。軽度の外傷,骨折,発熱など直接生命に影響を及ぼしそうにないと思われるものは準緊急とし,対象外とした。

 

III 緊急往診の実際

緊急往診は,まず覚知(患者または救急隊からの連絡),状況確認(電話での患者の症状,意識,呼吸状態など愚者状態の確認),出動準備(往診車への荷物の積み込み,現場の確認),出動,現場到着,現場診療という流れですすめられる。当診療所は図1の如く,普通の軽ワゴン車を1台所有しており,この1台で往診,訪問診療,訪問看護,患者搬送,雑用などすべてを行っている。山間部では,むしろ軽自動車のほうが機動性にすぐれて便利である。

この中に図2のような医療機器を積み込み往診を行っている。この程度の装備があれば現場でもある程度の医療行為は可能である。気道セットは重症患者の緊急往診では最も重要な備品であり,早期の気道確保で救命率の向上が可能であると考えている。酸素ボンベは5キロの小型のものを,どこへでも運べるようにしている。ほとんどの例にまず輸液を行うが,末梢ルートが確保困難な症例には,現場で中心静脈ラインの確保も行っている。薬品は必要と考えられるすべての注射,内服薬を持参する。その品目としては注射約30種類,内服薬50種類になる。心電計,モニター装置,パルスオキシメーターは充電式のポータブルタイプを使用して,現場で患者監視を行う。呼吸不全の患者には,ネブライザーや,スペーサーを用い,吸入治療を行う。現場で行えた,検査,処置について,以下列挙する。

 

○現場で行った検査について

血圧,体温,脈拍測定,血液検査(血算,生化学)

心電図検査,モニター監視

経皮酸素飽和度測定

 

○現場で行った処置について

気道確保,心肺蘇生術

輸液,薬剤投与

酸素投与

尿道カテーテル留置

血液検査は,現場で採血の後,看護婦に検体を持ち帰らせ,院内の簡易検査装置にて10〜15分で結果を出せるようにしている。

時間内往診では,看護婦も同伴して往診に向かい,スムーズに行動できるが,問題は時間外往診である。これらすべてのことをひとりでこなさなければならなくなり,医師に対する負担は大きい。ここで緊急往診の実例について紹介する。

 

○症例呈示

 

症例1

患者 81歳女性 老人性痴呆にて在宅介護中の患者

主訴 窒息

昼食中に,食物を喉につまらせ窒息状態となる。家族の者がうつ伏せで意識を失っているのに気づき,当診療所に往診の電話連絡があった。覚知より約10分で患者宅の現場到着,患者は口の中に食物を多量につまらせており,心肺停止の状態であった。用手にて口の中の異物を取り除き,背部殴打などを行いできるだけ異物を排除してから,気管内挿管をし,看護婦とともに心肺蘇生を開始した。ルート確保後,エピネフリン等投与,約10分後心拍再開した。昇圧剤の投与により,血圧も収縮期100mmHg程度まで上昇した。しかし気管内チューブからの吸引では多量の食物残渣を認め,トイレッティングも行った。

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION