離島眼科無料検診三十余年間の歩み
福岡県・医療法人 福田眼科病院
理事長 福田 量
病院長 百枝 榮
非常勤医師 光本 拓也
副婦長 山本千恵子
福岡県・なかよし眼科クリニック
院長 仲吉 則雄
福岡県・笠耳鼻咽喉科医院
院長 笠 誠一
長崎県・宇久町 町長 西村 八郎
長崎県・宇久町国民健康保険診療所
長崎県・小値賀町 町長 近藤 功
要旨
我々は昭和38年から長崎県五島列島の宇久島,小値賀島,生月島,鹿児島県の屋久島,種子島,沖縄県の沖縄本島および伊良部島で離島での眼科無料検診活動を行い,近年は宇久島,小値賀島に絞って検診を行っている。今回はこれら七島の中でも最も診療回数の多い宇久島を中心に,三十余年にわたる眼科無料検診の活動全体を総括した。この眼科無料検診の主旨は,ふだん眼科医の診療を受ける機会の少ない離島に生活する人々に対し,眼科の一般診療を行うことが目的であり,診察,処置,処方,眼科に関係する相談を第1回より無料で行っている。緑内障や網膜裂孔などの不顕性進行性の眼科疾患や,老人性白内障,斜視,弱視,その他屈折異常,翼状片,結膜炎,睫毛乱生の処置に至るまで,疾患の調査を第一の目的に掲げるのではなく,任意に受診する人々へ眼科の一般診療を提供することを活動の主体としている。
I 宇久島の医療環境
宇久島は長崎県五島列島の最北端に位置し漁業を基幹産業とし,人口4,315人(男1,944人,女2,371人),うち65歳以上の人口が30.8%(1,329人)を占め,へき地であると共に高齢化のすすむ島である。
町のシンボルマークは平家の家紋に由来し,周囲の島々とひと味ちがった風土,歴史的背景を伺わせる島でもある。島内には町立診療所が1カ所(19床)あり,医師2名,歯科医師2名が在住し,一般内科,外科,小児科,歯科の診療を行っている。宇久島は長崎県佐世保市の診療圏内にあり,眼科の受診先は佐世保市が中心である。このため,眼科を含む他の診療科を受診する為には,毎回,船を使って島外へ通院することになる。佐世保との間には片道約2時間半でフェリーが運航(大人片道2等2,280円)している。緊急時に利用できる交通手段には医療保険適用の海上タクシー(至佐世保,所要時間90分,片道80,000円)があり,海が荒れている場合は海上自衛隊大村航空隊にヘリコプターの出動を要請することになる。