表3には両群の背景因子を示す。抗生剤投与群において年齢がやや低いものの統計学的には差異はなく,その他性別,受診までの日数,セルフ・ケアの有無,受診時の症状点数,受診後の薬・解熱剤の使用日数など両群間に差異はなかった。
図2は母親の記載に基づく受診後の症状点数の経過である。10日までの経過では共に症状の改善に差異はなくほぼ同様の経過で推移し,点数は4日目でほぼ半分になった。
表4は両群における有熱期間の差異をみたものである。38.5℃以上の高熱および37.5℃以上の微熱に分けてみたところ,抗生剤投与群において有熱期間がやや長いものの両群間に差異はなかった。
表5は症状点数の経過を目的変数(受診日の症状点数-4日目の症状点数)とし,年齢,性別,受診までの日数,セルフ・ケアの有無,抗生剤・解熱剤投与の有無を説明変数とした重回帰分析の結果である。このうち有意な寄与因子は年齢のみであり,それが高いほど症状点数の改善が高かった。
薬剤の副作用については,表6に示すごとく抗生剤投与群の53%にて治療開始後に下痢・嘔吐などの症状が新たにみられ,対症療法群の13%に比べて有意に多かった。
3. 考察
1) 調査の妥当性について
本調査の妥当性における問題として次の2つがあげられよう。まず,今回定義された上気道炎の原因が,ウイルス,細菌感染あるいはそれ以外のいずれであったかが不明なことである。これに関しては,原因が細菌感染であった場合,抗生剤の抗菌範囲,量,投与方法に問題があり,効果に差異がみられなかった可能性も考えられる。しかし,選択された抗生剤はいずれも通常の市中感染をカバーする抗菌範囲のものであり,投与量は30mg/kg/dayと通常量であった。したがって欧米での調査8)でも指摘されているが,今回示されたような上気道炎は少なくとも「細菌は原因ではない」として考えるのが妥当であろう。事実,外来でみられる上気道炎の80〜90%はウイルス感染とする報告もみられる10)。
さらに問題点として,検討法が二重盲検法でなかったことがあげられるが,今回の検討はプライマリ・ケア設定の外来で行われ,現実的には二重盲検法は困難であった。そこで,できるだけ対象の偏りを避けるために選択には方法で示した定義に基づき判断し,2群の振り分けは受診順に従った。