図15に都祁村診療所で胃カメラで発見した胃がん患者の手術病院と進行度の内訳を示す。手術施行していただいた病院からは忙しい中それぞれ手術所見を送っていただいた。都祁村住民は距離的に比較的近い天理よろづ病院での手術を希望する場合が今のところ多い。現在のところ,4名の進行胃がんのうち,1名は(前記の基本健康診査で腹部腫瘤を触知した患者)手術適応なく死亡し,1名は(当診療所胃カメラ登録中で1年の間隔で胃カメラ施行したところsignet ring cellが見つかった進行がん患者)手術の甲斐なく死亡した。他の2名は,紹介先の返事およびその後の経過から根治手術できたものと判断している。早期胃がんの10名も根治手術ができたものと判断している。
図16に都祁村診療所で胃カメラで発見した胃がん患者の病理組織結果を示す5)。adenocarcinoma(tubl)が6名,adenocarcinoma(tub2)が5名,adenocarcinoma(por)が5名であり,porのうち2名からsignet ring cellが見つかった。
その他,図17に示すように,胃腺腫(group III)の患者が9名発見されてフォローアップしているが,9名のうち1名はEMR(Endoscopic mucosal resection)を受け,1名は本人の希望で開腹手術を受け,1名は42才と若く天理よろづ病院でさらに検査中である。他の6名は経過観察中であるが,高齢などの理由でもう胃カメラ検査は受けたくないと拒否する患者もいる。田尻ら4)によると,腺腫あるいはgroup IIIと診断される病変には極めて分化した癌や癌と共存するものを含む可能性があることを常に念頭においていなければならないと報告しており,フォローアップが必要と考えられるが,高齢などの理由でもう胃カメラ検査は受けたくないと拒否する患者には,充分説明をする必要があるものと考える。
IV 結語
A. 悪性新生物はいつの間にか誰にでも発生しうる。早期発見・早期治療が大切なことは近年誰でも知っていることと思われるが,今なお,各種検診を受診せず悪性新生物で死亡する人々が多数存在する。
B. 各種検診の受診者数は広報活動の仕方によっても影響を受けており,広報活動の一層の工夫をして受診しやすくする必要がある。
C. 他の疾患で受診中であっても,各種がん検診を受けているか患者に問いただしたり健康手帳を見せて貰って確認し,受けていなかったら症状の有無に関わらず検査を受けるよう勧める努力をする必要があるものと考える。
D. 折角,診療所を受診中であり症状があって検査を勧めても,がんに対する恐怖心や検査の苦しさあるいは高齢であることなどから拒否し,結局手遅れで死亡する患者もいる。
E. 胃癌患者について言えば,胃がん検診で見つかった1名と胃カメラ登録中の患者1名は1年前にも検査を受けながら,進行胃がんで発見され手遅れで死亡したが,検査の間隔を短縮する必要もあるものと考える。
F. 長寿社会で医療費の削減が叫ばれている昨今,早期発見・早期治療・生活習慣改善に努めてさらに健康で長生きをし,しかも医療費を削減していくために,検診のアピールや精密検診の追跡などに我々は更に取り組んでいく必要があるものと考える。
なお,以上の発表データの一部はインターネット上に公開しています。
アドレスは,http://www.justnet.or.jp/home/0423/WELCOME.HTM
または,http://www4.justnet.ne.jp/~0423/です。
参考文献
1) 富永佑民:わが国のがんの現状と将来予測:日本内科学会雑誌:85(3),6〜11,1996。
2) 深尾 彰:癌の治療成績に反映する癌検診の意義と問題点:日本医師会雑誌:118(3),329-332,1997。
3) Ronald J.Schlemper,Masayuki Itabashi,YoKato, et al. :Differences in diagnostic criteria for gastric carcinoma between Japanese and Western pathologists:Lancet:349:June14,1725〜1729,1997。
4) 田尻久雄 丹羽寛文:胃ポリープ・内視鏡の立場から:日本内科学会雑誌:81(5),17〜21,1992。
5) 長村義之:外科病理マニュアル:2(2),210,1996。
(都祁村立国民健康保険直営診療所 〒632-0221奈良県山辺郡都祁村大字白石1084)