日本財団 図書館


さらに,このカテーテルは,創感染巣再発に対する抗菌薬の静注や,死亡前数日間の疼痛管理にも使用することができた(図5)。

症例2

90歳男性。急性胃腸炎にて経口摂取が低下,嘔吐,下痢が頻回となり,同時に血液検査上炎症所見の増悪を認めた。

直ちに,抗菌薬の経口投与と従来の留置針穿刺による輸液を2日間施行した。在宅管理が可能なこと,輸液の継続が必要なことを判断し,自宅でグローションカテーテルを留置した。

この症例の場合,高カロリー輸液は施行せず,グリセリン加アミノ酸・電解質液(マックアミン)1000ml/日を4日間投与し,軽快した。

 

III 考察

在宅輸液療法(HIT)は,最近の輸液製剤や輸液器具,管理法の進歩により,新しい時代を迎えたといえる。

3Way valved PICCやアイセットの導入は在宅における輸液の施行や無菌管理を容易にし,また,ダブル・バック製剤のみならず様々な病態に即した輸液モジュールも現在開発中である。

このような変化のなか,たとえ僻地診療所であってもHITやHPNはもはや特殊な医療ではなくなってきた。

特に,僻地の場合,高齢化が都市部よりも先行し"必要にせまられた"という経緯から,医療のみならず,在宅介護支援センターの活動など保健・福祉体制もかえって都市部より充実している。加えて,患者家族の介護意識も高く,在宅医療に関しては“先進モデル地域”であるといえる。

048-1.gif

 

048-2.gif

著者が昨年度まで在籍し経験した大学病院でのHPN症例を表1に示す。

この経験と診療所での症例を比較すると,?@都市大学病院では患者の居住が広範囲で,在宅医療支援体制や病診連携体制が未整備なこと,?Aマンパワーの問題から,都市部ほど患者個々に体する福祉支援体制に限界があるなどの理由から,適応疾患があってもHPN症例は限定されてくる。

最近になって,民間のHPN支援会社による輸液の搬送や依頼時の訪問看護などのサービスが受けられるようになり,HPN施行も便利になったとはいえ,直接的な医療の支援体制は都市部では十分とはいえず,在宅医療において最も重要な患者・介護者の安心感が得られない場合が多い。

大屋町では,3つの公立診療所の医師が地域基幹病院での外来診療も行うことと,診療所間の24時間連携在宅総合診療体制を整備することで,いわゆる病診連携と診診連携が比較的円滑に施行できている。また,看護婦も町内に居住し,救急時も含めて患者・介護者の安心感も高い。このような事実は,実際,都市大学病院と僻地診療所の双方の在宅輸液療法を担当して初めて実感できたことである(表2)。

在宅医療は,医療と保健・福祉体制が有機的に連携し,介護者の理解と協力が得られてはじめて有意義なものとなる。

048-3.gif

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION