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この場合,脂肪乳剤はアイセットを使用して側注し,代謝上の特性を考慮して,10%乳剤に換算して100ml/h以下の速度でゆっくり滴下する6)

TPNやPPNに関わらず,間歇静脈栄養を行うことが,代謝上もまた在宅患者のQOLの上でも重要であり,輸液終了時にカテーテル内の粘度の高い輸液を除去する目的で生理食塩水を100ml滴下する。

輸液製剤は往診時に搬入し,数日間の管理であれば輸液の施行は医療スタッフが行う。長期間の輸液が予想される場合は,この間に介護者への輸液法や無菌管理の啓蒙を行い,適合を判定したうえで介護者によるHITに移行する。

3) 僻地診療所における新しいHITの実際

症例1

(1) HPNに至るまでの経過

73歳の男性。出血性胃癌にて胃全摘術を施行。術後に,縫合不全,腸閉塞,創感染を併発したが保存的に軽快した。術前より多発肝転移を認め末期癌の状態であったが,患者本人も家族も在宅療法(在宅死)を希望され,術後46日目に退院となった。

退院時は,まだ癌性疼痛はなく,家の新築による在宅の喜び,積極的に生きる希望があった。一方,既往症の脳梗塞による仮性球麻痺も併存していたため,経口摂取量は1日200〜400mlと極めて少く,補液が必須な状態であった。

(1)術後合併症の治療に集中したため,HPNの啓蒙が入院中できなかったこと,(2)患者本人・家族とも加療に積極的であったこと,(3)入浴はあまり希望されなかったこと,(4)術後縫合不全と腸閉塞により,経鼻胃管栄養が危惧されたことを考慮し,患者の自宅で正中肘静脈よりPICC(グローション・カテーテル)を挿入し,その直後より末梢静脈用グリセリン加・電解質・アミノ酸液(マックアミン500〜1000ml/日)の投与を開始した。

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(2) HPNの管理

患者本人と家族の在宅輸液に対する適合を確認したうえで,ダブルバック製剤(アミノトリパ1号,2号液850ml〜1700ml)に馴化した。この間,1度診療所に移送し,X線透視下にカテーテルの先端位置を確認した。

HPN管理は,付属インジェクションプラグ,つづいて?T-プラグを翼状針付き輸液セットで穿刺して間歇的中心静脈栄養を行い,終了後は,粘度の高い高カロリー輸液のカテーテル内残留除去の目的で生理食塩水100mlを滴下した。ビタミン剤は医療スタッフが訪問時に混注し,2週間は3診療所の医療スタッフが交替で管理し,その間に,輸液セットの無菌操作と穿刺方法を患者の妻に教育した。輸液製剤は往診時に1週間分まとめて自宅に搬入した。

その後1ケ月間,主に妻が輸液を管理できた(図4)。

(3) 臨床経過

輸液開始数日にて,起座や車椅子での移動が可能となり,刺身やいなり寿司など好物も少量ではあるが摂取が可能となった。HPNといえども,食物の経口摂取はQOLの向上のため極めて重要である。

一方,HPN施行17日目に,車椅子で移動中誤ってカテーテルを牽引して破損した。この時,主治医は午前の外来診療中であった。しかし,カテーテルの特性上血液逆流がないため,破損3時間後にゆっくりと往診し,新しいカテーテルを持参して患者の自宅で再挿入した。

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