II 僻地診療所における新しい在宅輸液療法(HIT)
1. 方法
1) 輸液ラインの構成
輸液カテーテルはメディコン社グローションカテーテルキットを使用する。このカテーテルは3way valved PICCという特徴をもつ。すなわち,?@輸液滴下時のみカテーテル側孔が開き,?A不使用時は側孔が閉じて血液逆流がなく,?B吸引して採血が可能である(図1)。このため,従来のカテーテルや静脈内留置針では間歇静脈輸液に際してヘパリンロックが必要であったが,その操作が不要となった。また,カテーテルの構造上,輸液が急速滴下とならず,代謝上の合併症も少ない。
カテーテルは穿刺キットを通して上肢の静脈より挿入する。正中肘静脈程度の太さの静脈であればどの静脈でも選択可能である。挿入時,ガイドワイヤーが付属しており,先端が柔らかいため容易に中心静脈まで挿入が可能である。どこまで先端を進めるかは,高カロリー輸液が必須か否かで適応を選択する。数日間の輸液であれば,末梢静脈にとどめてもよい。すなわち,中心静脈栄養にこだわることなく,末梢静脈高カロリー輸液も選択でき,この場合は,自宅での挿入も可能である。またHPNを施行する場合も, 自宅で挿入し,高カロリー輸液に対する馴化の期間中にX線透視下あるいは超音波下に先端の位置確認を行えばよい。
このようにしてカテーテルを留置後,付属のプラグあるいはアイープラグ(ニプロ社)をカテーテルに接続し,翼状針付輸液セットでこれを穿刺して輸液を開始する(図2)。この輸液ラインが現状では安価であり,輸液セットをカテーテルプラグと輸液製剤に穿刺するのみであるため無菌操作と管理が簡便である。また,付属プラグよりもアイープラグを使用したほうが穿刺しやすい。他方,抗菌薬や鎮痛薬も同時に輸液する場合は,アイセット(ニプロ社)をカテーテルに連結する(図3)4)。
2) 輸液製剤の選択と実際の管理法
完全中心静脈栄養(TPN)か末梢静脈栄養(PPN)を選択するかで異なる。
TPNを施行する場合は,上室にアミノ酸液,下室に糖・電解質液を配合したいわゆる“ダブル・バック製剤”が数社より市販されており,在宅管理上も簡便である。なお,脂肪乳剤も混じた“ワンパック高カロリー輸液”は最近のわれわれの検討では,脂肪粒子の粗大化を招き禁忌である5)。
PPNの場合は,市販の糖・電解質・アミノ酸製剤あるいはグリセリン加電解質・アミノ酸液(マックアミン)を使用する。アミノ酸を補充する方が,高濃度の糖質をカロリー源とするよりも,体蛋白崩壊を抑制するという報告が多い。また,米国流の輸液処方に影響をうけたわが国では,静注用脂肪乳剤の使用頻度が低いが,ヨーロッパのような脂肪を積極的にカロリー源として利用するPPNも積極的に採用する。