僻地診療所における新しい在宅輸液療法の考案と実践
兵庫県・大屋町立南谷診療所
馬庭 芳朗
兵庫県・大屋町国保大屋診療所
柴山 慎一
兵庫県・大屋町国保西谷診療所
河原浩二郎
要旨
在名輸液療法が安全でかつ容易に長期間施行できるようになれば,患者のQOLの向上と在宅医療の新たな飛躍が期待できる。
3Way valved peripherally inserted central venous catheterを用いた新しい在宅輸液管理法の導入により,在宅中心静脈栄養が適応となる特殊な症例のみならず,高齢者の急性疾患に付随した経口摂取低下に対する一時的な在宅輸液も容易となった。
今回,僻地診療所における実際の症例を通してその有用性を提唱し,併せて,都市大学病院における在宅輸液療法との比較からその特性を考察し報告する。
I はじめに
大屋町は兵庫県北部の山間に位置し,人口は約5,000人で県内でも有数の高齢化地域である。鉄道はなく,地域基幹病院まで路線バスで1時間を要する。町内の医療は3つの公立診療所が基幹病院との病診連携および診療所間の診診連携のもとで担当している。このような僻地の在宅医療において,もし安全かつ容易に長時間の輸液やひいては在宅中心静脈栄養法(Home parenteral nutrition,HPN)が施行できるようになれば,患者のQOLの向上のみならず地域医療の新たな飛躍が期待できる。
これまで,HPNは在宅医療のなかでも特殊な手技と管理が必要とされ,限られた施設で施行されてきた1)。すなわち,皮下埋め込み式リザーバー付中心静脈カテーテルが推賞され,輸液調剤や無菌的輸液管理が繁雑なため適応は限定され,診療所レベルではその施行は困難となる。
一方,僻地の診療所において,長期間の高カロリー輸液が必要なくとも,肺炎などの炎症性疾患や脳血管障害に付随する経口摂取低下に対し,数日から数週間の輸液療法が必要となる症例によく遭遇する。この場合,その管理の困難さから,基幹病院に入院せざるを得ない場合も多く,新しい輸液管理法が渇望されてきた。
最近になって,3Way Valved PICC(Peripherally inserted central venous catheter)が開発され,主に消化器外科領域の術後管理における有用性が報告されている2)3)。
今回,このカテーテルの特性を応用するとともに,無菌管理を容易とするうえで,輸液製剤として市販のダブルバック製剤あるいは糖・電解質・アミノ酸製剤を用い,輸液ラインにアイセット(ニプロ社)を導入した新しい在宅輸液療法(Home InfusionTherapy,HIT)を提唱し,その有用性を実際の診療経験から報告する。併せて,著者の大学病院におけるHPNの経験から,地域診療所での在宅輸液・栄養療法の特性を比較・考察する。