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考察

最近S-TA補充療法はRDSだけでなく,ARDSでもその原因を問わず多くの症例でその有用性が報告されている(4X6)-(8)。我々はすでに離島におけるS-TA補充療法によるARDSの救命例について症例1.として報告(5)したが,今回はさらに3例の治療例を経験したので4例をまとめてその有用性につき考察する。

いずれの症例もlung injury score(9)ではsevere lung injury(症例1.=2.7,症例2.=2.7,症例3.=3.3, 症例4.=2.7>2.5)であり,またAECC(The American‐European Consensus Coference)の診断基準(10)でもARDSと診断され,その治療経過からS-TAの投与が奏功したものと思われた。しかし,いまだARDSに対するS-TA補充療法は, RDSのような多施設のcase.control study(2X3)が行われておらず,有効性の客観的評価が得られていないため応用治療が普及するには至っていない。だが多くの症例報告からその有用性が示唆されるだけに,今後これら症例の蓄積によりさらに詳細に検討されることが期待される。

ARDSの原因は多種多様(10)(11)であるが,その病態は肺胞一毛細血管の透過性の亢進による肺浮腫であり,肺胞内に上昇した血漿蛋白質によりサーファクタントの不活化や喪失が二次的に起こっている(1)。従って,RDSにみられるような肺胞の虚脱,無気肺領域の換気一血流比の不均衡,肺内右左シャントの増大により,高度の低酸素血症がもたらされ,さらに肺胞?U型細胞が死滅し肺サーファクタントの産生とリサイクルー再分泌機構が障害され悪循環に陥る。これら障害の際,サーファクタントの組成として表面活性機能がないsmall aggregateは増加するが表面活性機能を有するlarge aggregateが不足する(12)ため,S-TA補充療法は不足している後者を補うことが目的とされている。

症例1.は多量の飲料水の嘔吐に伴う淡水溺水の誤嚥性肺炎が,症例2.は溺水にともなう海水の誤嚥性肺炎が原因であった。溺水に対してはS-TA補充療法をせずにステロイド,抗生物質の投与などで治癒できた報告(13)もあるが,本症例の場合a/AP02および胸部XpやCTなどの改善から治療にはS-TAが有用であったと思われた。症例3.は肝不全に併発した肺水腫にもとなう肺炎であるが,S-TA投与後のa/AP02の改善は顕著ではないものの,胸部Xpの改善は明らかであった。症例4,ではその効果は急性期にしか得られなかったが,胸部Xpの改善と酸素飽和度の改善は著明であった。いずれも第一線の医療機関のため,治療過程の詳細なデータの収集はできなかったが,a/AP02の推移からS-TA投与後に右左シャントは確実に改善しており(Fig.9),また胸部XpやCTの改善は著明で,これら臨床経過の改善はS.TA補充治療によるものと考えられた。

当初治療に際しこれら症例においても高次医療機関への搬送は考慮したが,ARDSの救命率は現在の集中治療の進歩にもかかわらず50%程度(8)であること,人工呼吸器による管理中の患者を2時間以上もかかる長時間の搬送(14)は〇は,その間にアンビューバッグでの持続した加圧呼吸補助が必要なこと,患者の容態の変化などのリスクを考えると,地域の第一線の医療機関であっても搬送は必ずしも第一選択にはならないと判断した。

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