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またARDSの治療はステロイド大量投与が有用とされているが,最近の報告では症状の軽減,肺の繊維化の頻度ならびに死亡率の有意に減少していない(15)-(17)。ARDSは肺サーファクタントが不活性化する(8)ことによる進行性の呼吸不全であり,その急性期は人工呼吸管理でも少なくとも1週間は持続する(16)。この初期診療で治療が奏功しなければ患者を救命することが難しくなるため,S,TA補充療法は早期に検討されてもいいと考える。投与方法は挿管チューブから気管支鏡下に分泌物を吸引除去(18)した後に各葉に分割注入するだけである。投与量は報告者によって意見が分かれる(8)が,成人の肺サーファクタントプール量は約15mg/kgであること(19)を考慮すると,その約1/3-1/2に相当する4-6mg/kg(240-360mg)が妥当(20)と考える。実際我々の経験症例でもこの容量の単回投与で十分な効果が得られた。

画像診断に際しては症例1.や症例3.の経過では,胸部Xp(Fig.2a)や採血データでは炎症が改善したようにみえても,CT(Fig.2b)(Fig.6)では沈下性肺炎のように背部にconsolidationが持続していることもある。またこのような部分に感染をおこしたり,さらにDICへ発展する(5)(16)こともある。人工呼吸器による管理中の患者にCT撮影をすることは必ずしも容易ではないが慎重な経過観察のためには胸部XpだけではなくCTを施行すべき(5)(21)(22)と考える。症例3.においては胸部Xpの改善にも関わらず,右左シャントの改善が急性期にしか得られなかった(Fig.9)のは,CT(Fig.6)みられるような背部の病変が関与していたためと思われた。

ARDSの予後は肺実質の障害の程度もさることながら,実際には多臓器不全の合併症の有無とその程度に左右されることが多い(10)(11)だけに慎重な観察と治療が必要である。症例3.と症例4.でもARDS自体は改善.治癒したものの原疾患および多臓器不全のために死亡している。しかし,両症例ともS.TA補充療法を行わなければ呼吸不全が予後を規定していたものと思われた。

以上のように原因の如何を問わずいずれの症例においても臨床経過,胸部XpやCTの画像所見の変化,a/AP02の経過から,S,TA補充療法は呼吸状態の改善に有用であったと考えられた。確かにARDSの原因は多様であり,症例1.2.のように直接の肺障害症例ではその有用性は顕著であるが,症例3.4.のように多臓器不全に合併した肺障害では全身状態が悪いため,ARDSそのものの治療もより困難となり,必ずしも良い転帰を得られなかった。しかし先に述べたようにその病態はRDSと同様であり,S.TA補充療法はARDSでも理論的な治療法と考えられ,我々の症例からもその有用性が確かめられた。またS.TA補充療法は特別な手技を要しないこと,副作用がないことを考慮すると家族の同意が得られるならばARDSに対してもよい適応と考える。

また症例3.の治療に際し,利尻島での我々の治療(23)を知った士別市立病院の主治医師から問い合わせせがあり,電話とFAXによるS.TA治療に関する治験と論文情報提供の後,家族へのインフォームドコンセント上第11病日に治療が行われた。地域医療における診療支援は単に患者を搬送(14)するだけではなく,このように情報交換することによっても可能である。またたとえ地域医療の第一線の医療機関であっても,総合医の努力により集中治療による救命(5)(24)や専門的な技術を駆使した高度の医療(25)も可能となる。さらにこれらを発展させるならば,多くの病院間で互換性のある画像伝送システム(26)による情報ネットワークを構築することにより,将来さらに充実した地域医療の診療活動が可能となるであろう。

原因の異なる4例のARDSに対しS.TA補充療法を行い,その有効性につき検討したので報告した。

尚,症例1.症例2.においてサーファクテン(R)を即日利尻島まで空輸頂いた?鞄結椏c辺製薬に心より御礼申し上げます。

 

文献

1) 藤原哲郎,小西峯生,千田勝一,他:サーファクタント補充療法.呼吸;7:823-831,1988

2) Fujiwara T,Konishi M,Chida S,et al:Surfactant replacement therapy with a single postventilatory dose of a reconstituted bovine surfactant in preterm neonates with respiratory distress syndrome:final analysis of a multicenter,double blind,randomized trial and comparison with similar trials.

Pediatrics;86: 753-764,1990

 

 

 

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