<症例2.>
症例:60歳,男性,利尻島在住。
現病歴:1995年6月14日,泥酔状態で海に転落し,救急隊により心肺蘇生を施行されながら,救急車にて利尻島国保中央病院に搬入された。
現病:意識レベルはJCS3。血圧120/70mmHg。血液ガスはpH7.107と著明なアシドーシスを呈し,PaO261.3mmHg,PaC0257.8mmHg(a/AP02=0.1)と著明な低酸素血症を呈していた。
入院経過:直ちに気管内挿管を行ったところ,多量の海水の喀出を認めたため気管支鏡下に肺内の海水を吸引した。薬剤にて鎮静の上,volume control,pressure support10cmH20,PEEP 6cmH20,FiO280%の条件で人工呼吸管理を開始した。胸部Xpでは全肺野にすりガラス状陰影を認め(Fig.3a),同時に撮影したCTでは肺野は全体に輝度が上昇し,著明な含気の低下を示し(Fig.3b)ARDSと診断した。抗生物質,ステロイドなどにより集中治療を開始した。人工呼吸開始22時間後に気管支鏡下にS-TA360mgを投与したが,気道の刺激のために100mg程度は喀出されてしまった。しかしPa02は投与前97.9mmHgから2時間後に188.0mmHgへと改善した。第6病日には人工呼吸器を離脱し,第7病日には胸部Xp,CTともにほぼ正常に改善した。第22病日軽快治癒退院した。
<症例3.>
症例:44歳,男性,士別市在住:
現病歴:肝硬変として外来にて経過観察をしていたが,1996年1月27日肝硬変による肝不全,肝性昏睡のため救急車にて市立士別病院に搬入された。
現病:肝性昏睡3度。血圧124/90mmHg。脈拍90/分。腹部膨満。血液生化学検査ではWBC 7200/mm3RBC367×104,Hb 13.lg/dl,plt 4.5×104G OT 107IU/1,GPT 72 IU/1,ALP 756 IU/1,TP 5.4g/dl,T.Bil 3.Omg/dl,BUN 37.9mg/dl,Cr l.5mg/dl,BS161mg/dl,NH3 345μ g/dl。
入院経過:肝不全に対する治療を行ったが肝腎症候群.高血糖(BS>300mg/dl).DICを併発,さらに肺水腫に肺炎を合併し,第9病日にはインスピロン101/分でもPa02 35.6mmHg,PaC0240.2mmHgと著明な低酸素血症となった。胸部Xp(Fig.4)は全肺野がすりガラス状でARDSと診断した。第10病日気管内挿管の上人工呼吸管理を開始し,同時に抗生物質,ステロイド,AT‐?V製剤などによる集中治療を行った。しかしFiO2100%によるCMV,PEEP 8cmH2OでpH7.092,Pa02 75.6mmHg,PaC02 63.6mmHg(a/AP02=0.11)と改善しないため,第11病日気管支鏡下にS-TA240mgを各葉に分注投与した。Pa02は投与前51.9mmHgから30分後に106.9mmHgへ改善した。第18病日の胸部Xp(Fig.5)も徐々に透過性が増加し,Fi02を低下させることができた。第21病日CT(Fig.6)では右肺背部にのみconsolidationを認めた。その後感染症の増悪,脳浮腫とともに肝不全に伴う多臓器不全のため人工透析による治療にもかかわらず第22病日死亡した。