現病歴:心気抑欝にて他院精神科にほとんど臥床で入院していた。1994年8月9日自宅に外泊し,多量の飲水後に就寝した。翌朝起床時に多量の水を嘔吐1同時に誤嚥し呼吸困難となり約40分後に利尻島国保中央病院に搬入された。
現症:意識レベルはJCS200,チアノーゼを呈していた。血圧170/140mmHg,脈拍90回/分。呼吸音はcoarse crackle,気道からはpink pufferの持続喀出を認めた。
合併症:高血圧,心気抑欝。
入院経過:入院後ただちに気管内挿管を行ったところ,多量の液体を喀出した。SIMVで4cmH2Oのpressure supportとPEEP5cmH20,Fi0285%で人工呼吸管理を開始した。翌日には意識状態はJCS20まで改善したものの,依然としてcoarse crackleが聴取され,気道内からpink pufferの喀出が持続していた。胸部X線写真(以下胸部Xp)では全肺野にすりガラス状の陰影を認め(Fig.la),同時に撮影した胸部CT(以下CT)では全肺野で輝度は上昇しており,著明な含気の低下と浮腫性変化を示し(Fig.1b),誤嚥性肺炎によるARDSと診断した。DIC(Disseminated Intravascular Coagulation)を合併したため抗生物質,ステロイド,γグロブリンに加えAT.III製剤,FUT,heparinなどによる集中治療を行ったが呼吸状態は改善しないため,治療開始36時間後にS-TA補充療法を行った。気管支鏡下に気道内の分泌物を吸引.除去した後,内視鏡チャンネルを介して左右の各区域支にS.TA360mgを分注投与した。投与2時間後にはpink pufferは消失し,coarse crackleも聴取されなくなった。PaO2は投与前78mmHgから2時間後には85mmHg,翌日には120mmHgへ改善した。第7病日の胸部Xp(Fig.2a)では不明瞭だが,CT(Fig.2b)では両背部の無気肺,胸水の貯留を認めた。この部分に感染を起こしたと思われ,再度DICを併発したが集中治療により治癒した。第8病日に気管切開術を施行し徐々に換気条件を低下させ,第29病日に受傷前とほぼ同様の状態に回復し転院した。