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Mohriらの報告によると,舳倉島の海女と千葉県房総半島および韓国の海女との潜水プロフィール(潜水の作業強度)の比較では,潜水深度,海底での滞在時間,一日の潜水回数および,潜水時間の総計などいずれの項目においても舳倉島の海女が上回っていたという2)

舳倉島には,1961年に診療所が開設され,1980年度より自治医科大学を卒業した医師が派遣されている。著者らは舳倉島の診療所に1988年から1996年にかけて勤務し,その診療経験から,不安感,動悸などを訴えて受診し,抗不安薬が奏効し,その服薬を希望する海女が多いことに気が付いた。これらの海女の状態は島内では「チヤマイ」と呼ばれ,島民の話を総合するとその特徴は,?@潜水作業に関連して発症すること。?A急激に出現する不安.恐怖や自律神経症状などのパニック様発作が主症状であること。?B症状などへの予期不安により稀ならず海女作業が困難となること,であった3)

今回著者らは,「チヤマイ」の臨床像を明確にするために,島内で行った聞き取り調査の結果について報告し,診療所を受診した「チヤマイ」の症例を紹介して,診断学的位置付けなどについて若子の考察を加える。

 

II 調  査

A. 対象と方法

対象は1996年8月10,11日に行われた総合検診(内科,耳鼻咽喉科,眼科および上部消化管内視鏡)を受けた島民61人(男17人,女44人)であり,表1に掲げる質問票に従って調査者が面接して回答を得る方式で,全員から回答を得ることができた。調査当時の在島者数はおよそ300人であることから,島民の約20%,海女の約27%が対象となった。図2に,回答者の年齢。性構成を示す。

B. 「チヤマイ」の定義

我々は調査と同時に,島民よリチヤマイの臨床像について聞き取りを行った。それによると,「チヤマイ」に対する疾病観は,不整脈などの身体的疾患とする立場から,海女のみに特異的に起こる精神的な疾患とする立場まで,多様に理解されていることが判明した。これらの中で多数を占めた疾病観を総合すると,表2のようになる。

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