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石川県舳倉島の海女にみられる不安障害の検討

―いわゆる「チヤマイ」の臨床的特徴について―

 

  石川県・石川県立高松病院

  栃木 真一・北村 立

  (元 市立輪島病院舳倉診療所)

 

要旨

石川県能登半島沖の離島,舳倉島における診療経験から,海女の間にパニック様の発作を示す「チヤマイ」という疾患が存在することに着目し,その臨床像を明らかにするために聞き取り調査を行い,その結果は以下の通りであった。?@対象者の15%(9/61人)が「チヤマイ」を経験しており,?A30歳台の発症者が44%(4/9人)と最も多く,?B「チヤマイ」の罹患者の56%(5/9人)が調査時点においても海女作業などに支障を来しており,?C「チヤマイ」の症状のうち,動悸が最も多かった。また,著者らが直接診療した「チヤマイ」の症例を2例提示し,「チヤマイ」が「パニック障害」と類似の,舳倉島の海女に特有な不安障害の一型であることを指摘した。

I はじめに

舳倉島(へぐらじま)は石川県能登半島の輪島市の北50kmの日本海に位置する離島である(図1)。島の周辺はアワビ,サザエなどの漁業資源に恵まれ, 日本海の良好な漁場にも近いため,島民の大半は漁師と海女によって占められている。島民は輪島市側にも住居を持ち,島の人口は夏季(4〜9月)のアワビ漁のシーズンには300人を越え,冬季(10〜3月)には100人前後となる。

十数年前の水産庁の調査によると,舳倉島の海女の数は163名と報告され,現在でも毎年1〜2名の後継者が出ており,その数に大きな変動はない。アワビ漁は7月から9月までの3ヶ月間に限って行われる。特に熟練した海女が行う,命綱を付けて海底深く潜り,船上のパートナーに引き上げてもらう漁法は,高度な技術を要するため,全国的にも限られた個所でしか行われていない。この漁法で彼女らは水深25mまで潜るという1)

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