8 オンブズマンの機能
日本では、裁判所に直接行くのではなく、それに取って代わる訴訟解決手段が非常に有効に機能していると聞いています。その例として、 1960年代に日本の裁判所は、交通事故の損害賠償訴訟で溢れ返って、その審理が捗らないということがあったために、より分かりやすく効果的な賠償方式が考案され、それが定着することによって、裁判所での正式な法的な訴訟手続を踏まなくても交通事故の紛争解決ができるようになり、裁判所での訴訟が激減したと聞いています。
オンブズマンの概念は、このような裁判所以外での紛争解決のプロセスの一つとして捉えていただけると大変よいかと思います。このようなプロセスは、通常は公共部門でしか見られませんが、民間部門でも活用できることは事実です。しかし、私の個人的な意見を言わせていただけば、このオンブズマンシップの機能は、公共のものに限った方がいいのではないか考えています。
ニュージーランドのオンブズマンには、民間部門の腐敗や不適切行為、不法行為に関しては調査権がありません。したがって、他の仕組みが必要であると考えています。オンブズマンの権限は、公共部門に限定されているので、政府の政策や行政に関するプロセスの一部ということになっています。しかし、繰り返しますが、政府及び行政の一部機関に属しているわけではありません。
9 オンブズマンの憲法上の立場
オンブズマンの調査権限は、略式の形式でなされ、これが政府の行政上の行為に反映するということなので、特にニュージーランドのように、オンブズマンの概念や機能が憲法・基本法で保障されていない場合には、オンブズマンの職権や立場が非常に不安定なものになります。憲法上保障されていない立場にあるオンブズマンの職能については、理論上は、わがニュージーランドのいついかなる政権の時でも、このオンブズマンの制度を廃止することは可能なわけです。しかし、私の意見としては、現在のように民主主義においては、コンピューターや様々な電子機器を使用したコミュニケーションの手段により政府の政策過程が市民にオープンになってきている以上、私どもの政府においては、オンブズマンを廃止するようなことは、現代民主主義に反することになるので、そういったことは起こらないと信じております。私どもは非常に開かれた政府と思っていますし、もし、オンブズマンの制度を廃止するような政府であれば、その政府は倒れるであろうと信じています。
10 情報公開
ニュージーランドのオンブズマンは、請求によって、行政情報や政府情報を公開することができます。公開に該当しない情報に関してその旨の法的な根拠が明白である場合を除いては、国民に情報として公開される必要があると考えられています。情報公開の目的としては次の2つが挙げられるかと思っています。まず、?@法律の制定や政府の政策決定プロセスへの国民の参加をより可能にまた大きくするという点です。次に、?A国民が大臣やその官僚に、官僚たちが下した政策決定や行為に関して、いつでも説明を求める権利を保障するということです。このような情報公開に関しては、法律に定められているとおり、その法的な根拠がない場合にはディスクローズ(disclose)されることはないと考えています。