第2部 外国調査結果
1. イギリスにおける自治体行政を巡る苦情処理機関の現状と動向
(1) 自治体レベルでの行政苦情処理の現状
ア. 市民相談所と自治体との連携
(ア) 市民団体が行政苦情処理をする意義はどこにあるのか
イギリスの地方自治体においては、わが国に見られるような市民相談室あるいは市民相談窓口のような組織はほとんど見受けられない。その理由は、大別して2点あげられよう。第一は地方行政オンブズマンの存在である。地方行政全般に渡って苦情を申し立てる制度が確立していることである。しかし同時に、これから検討する市民相談所および市民相談所全国連合もまた大きな役割を果たしていることを特筆しておかなければいけない。いうまでもなく、わが国の市民相談室においても狭義の行政苦情処理だけでなく、法律相談など多方面の相談を行っていることは前述した通りであるが、その点からしてもイギリスの市民相談所が果たしている役割はわが国の市民相談室の役割とほとんど同じであるといえよう。ただ違うのは、いうまでもなく、わが国では自治体自体が住民サービスの一環として開設しているのに対して、イギリスにおいては民間団体が実施しているということである。このへんはまさにイギリスと日本の行政風土の違いの基本であると思える。イギリスにおけるボランティア団体の活動の多くが公的領域にまで参入していることを如実に示すものである。
市民団体が行政苦情処理をする意義は、行政の守備範囲の限定効果と第三者による中立的・任意的な仲介・あっせんにあるといえよう。ただわが国でこのような組織の形成を行おうとする際注意しなければいけないことは、往々にして官製の天下り団体になってしまうか、また逆に行政と対立的な立場をとり、行政を批判することが中心となり、肝心の市民の行政に対する苦情の救済は二の次となるか、あるいは極めて党派的なものとなりかねないということである。行政とイコールパートナーの立場をとり、市民の救済のために活動することができにくい現状を改善することが急務であるといえよう。
(イ) 市民相談所全国連合の活動
市民相談所全国連合(National Association of Citizens Advice Bureaux)は、1939年創設された。全国に727の市民相談所と1054の支部を持つ。市民相談所には約2万8千人