米国の労働市場や教育制度の下では、労働者に十分な技能を持たせるとことができないという、問題解決に向けた新しいコンセンサスの必要性が有力な政策グループの中で生まれている。米国の若者は学校から職場へのきちんとした移行を経験していないと言われており、職場も多過ぎるほどの仕事量があるにもかかわらず、その仕事に向けての訓練はほとんどなされないという状態がみられる。逆に、ドイツの実習制度は学校から職場への順調な流れを作り、形式的で不十分な学校教育で育てられた労働者にとって特に役に立つ形で、経歴に有利になる能力を提供する制度のモデルとして挙げられてきた。
本稿は、アメリカ・ドイツ両国における学校から職場への移行と若者の失業問題、そしてアメリカがドイツから学ぶべき教訓は何かについて検討する。しかし、ドイツモデルへの転換の可能性については、慎重にその限界を考察する。
まず、両国間の若者の失業率の差異について、学歴(教育レヴェル)別に検討するところから始める。その後で、両国の学校制度における職業準備の観点から、ドイツの低失業率の背景を検討する。ドイツの成果の鍵は、若者に対する職業訓練の重要性が社会的コンセンサスとして存在していることを明らかにする。ドイツの職業教育がアメリカにうまくとり入れられるかは、そうした社会的コンセンサスが成り立つ可能性の如何に直接関係している。
2. 若者の失業
若者の失業率をいう場合、アメリカでは16歳から24歳、ドイツでは15歳から24歳の年齢層を対象にする。アメリカとドイツの若者の失業率にはかなりの格差がある。図表5-1は両の若者の失業率を詳細に比較したものである。数値は1993年当時のもので、全体ではアメリカの失業率はドイツより低かった。
1993年におけるアメリカの若者の失業率(13.4%)は、全労働者の失業率(6.8%)の2倍なのに対し、ドイツの場合は同率(若年者、全体平均共に7.7%)である。アメリカの16歳から19歳までの失業率(男子:20.4%、女子:17.4%)は、ドイツのそれ(男子:5.4%、女子:5.3%)よりかなり高いものの、20歳から24歳の場合では格差が縮まっている(アメリカ男子:11.3%、アメリカ女子:9.6%、ドイツ男子:7.7%、ドイツ女子:8.5%)。このようにアメリカの失業者の方が若く、失業中のアメリカ人の3人に1人が16歳から24歳までの若者によって占められている。一方、ドイツの場合は15歳から24歳の若者の失業は7人に1人にすぎない。
ドイツに比べて数多くの民族が混在するアメリカでは、若者の失業問題は少数民族においてさらに深刻である。黒人の失業率は、1993年に27%を越え、他方、白人のそれは11.2%にとどまっている。とりわけ労働市場で最も需要が少ない、16〜19歳までの黒人男子の失業率は39.8%にはね上る。失業中のこれら若者が、成人になっても労働市場で雇用されないのなら、将来にわたって少数民族の若者は、労働市場で不当に多くの問題を経験せざるを得なくなろう。