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こうした意識の変化は、企業が大きく求心力を失うことにつながり、バイト、パートタイム、臨時・日雇い・派遣労働者という姿に変ってきたと考えられる。これが、企業側の人減らし、人件費削減政策とあいまって、日本の労働市場を大きく変化させようとしている。

若年労働者の「自己意識」は、失業も恐れない勢いをもっており、1995年3月時点では、若年層の失業率が7.5%にも達した。欧米の高い失業率には及ばないものの、やがてこの失業率は、何かの問題をもった「社会層」となって、現実の社会に問題を引き起こすかもしれない。

中高年層の非自発的離職や、年俸制などの人事管理改革に対し、自己を防衛する手段が考えられてくることは、安易に想像し得ることであろう。その一つとして有力なのは、スペシャリストへの道である。若者たちのほぼ100%近くが、「何かの資格をもちたい」と答えている(日本経済青年協議会調査、1996年「現代若者の仕事観と生活観」)。

ジェネラリストは、機械の部品と同じく、いつでも代替可能である部品でなく、“自分でなければならない仕事人になりたい、”と考えるのは、当然といえば当然であろう。

こうして、これまでは終身、求心力を持ち続けた企業は、自らの核心を崩していかざるを得なくなった。これに連動して、若年労働者、高校生・大学生も自分自身に求心力を作るように変身しつつある。

本調査では、アルバイト求人誌「A」の読者を対象とするもの、また専門学校へ進学する者を対象とするものを含んでいる。そこで今日のこれまでの労働史的視点から、アルバイトについての歴史や今日の状況を学生援護会の『アルバイト白書』からみることとする。

本調査はこのような時代を背景として、「自己」を中核としてどのように「労働」や「生活」を考えるのか。また、企業の人事担当者は、どのように若年層を把握し、この急激な変化にどう対応しようとしているのかをみようとしたのである。

(1)アルバイトの歴史

アルバイトは「日陰」の存在から「日向」の存在になった、といわれたのは、1980年始め頃である。松原治郎 東大教授は「アルバイト白書(学生援護会刊)」で、日本のアルバイトはなお、産業社会にとっても、青少年の教育にとっても、また個人のキャリアという点からいっても“影の文化”扱いされていると述べている。

アルバイトに相当する昔の言葉は「内職」になるかもしれない。しかし、今のアルバイトのイメージは、およそ「内職」とは違っている。明るいし、じめじめした感じがない。そもそもアルバイトという言葉の歴史をみると、「外来語の語源」(角川書店1979年)にあるように、第二次世界大戦後のことであった。

戦前にあった内職学生は、学生社会のマイノリティに過ぎなかった。「苦学生」はこのラベリングの結果だった。戦後になって、全ての大学生は苦学生になった。これは、マイノリティのマジョリティ化といえる。「勉学のためには、アルバイトによって学資を稼ぐことが不可欠」となった。こうして、アルバイトは内職から、アルバイトとして社会化されるに至る。

アルバイトは一般化し、言葉も「バイト」と略されるようになり、勉学のためではなく、金を

 

 

 

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