日本財団 図書館


序論 アルバイトにみる現代若者の気質

 

1. 若年層の労働と歴史

このたびの調査は、3種類のものからなっている。その1つは、若者の進路についての調査で、アルバイト紹介雑誌の「A」の読者対象として行ったものである。その2つは、専門学校生のキャリア・アップ調査で、専門学校に在学する者を対象として行ったものである。その3は、企業の第一線で若年労働者と接している人事担当者に対し、この頃の若者をどうみているか、前二者と対照する形で質問を行っている。

「働くこと」についての考え方は、ここのところ、激変した。いわゆる会社離れが起きており、企業に「求心力」がなくなったといわれている。とくに、銀行が倒産したり、世界的な証券会社が自己廃業をしたり、日本を代表するような企業が、つぎつぎに倒産したりで、株価も低迷状態にある。政府の景気判断は「不況」の色が濃く表明されるに至っている。

このような状況の中で若者たちの「働くこと」についての意識は大きく変っている。しかし、その変化の内容は厳しさを反映しつつも、全体として極めて楽観的で安易とさえいえるようである。若者たちは時代の状況に背くかの如く、「自我意識」が強く認められるようで、この調査企画会議でも一致して「いまどきの若者」の「自我意識」を肯定視していたと思われる。

そのひとつの例として、「フリーアルバイター」や「転職」についての意見交換は、そのことを示唆してあまりがある。

これまでの考えでは、「転職は転落」であり、定職に就かないフリーアルバイトは、あってはならないものと位置づけられていた。定職に就かない若者は、この社会に「居場所」のない者と考えられていた。

転職はいうまでもなく、「定職」を否定する行動である。これまでの労働政策は、青少年をいかに「定着」させるかに重点が置かれてきた。しかし、このような日本型雇用形態は、急速に変化しつつある。

これまであった雇用労働面での規制緩和がここのところ、その威力を発揮しつつある。民間有料職業紹介の対象は、97年4月から原則として新卒を除くホワイトカラー職一般にも拡大された。人材派遣業も専門職だけの制限も撤廃され、女子の深夜業も制限がなくなった。

競争のグローバル化が進んでいるといえよう。このため非自発的退職者が多くなっているが、特殊な動きをするのが、若年層の自発的退職が多くなったことである。

若年層の自発的退職は、ここのところ急速に変化した価値観の変化に運動している。それは、「自らに適した職業」を最高の価値とする考え方であり、その背後には「自分のため」「自分らしく」「自分であること」という「自己意識」の覚醒がある。

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION