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遺体は、肝硬変により肝不全を引き起こして亡くなられた方でした。肝硬変というと、現代社会の問題の一つである成人病の一つとしてよく知られています。私の祖父も肝臓が悪いためもあって、肝臓の観察を行うことは特に関心がありました。肝臓の色も他班と全く異なり緑白色という色で表され、表面は小さな隆起が多く見られ、手の感触は固くでこぼこしていました。肝硬変の名の通り、肝臓の硬化が著しかったです。他に驚いたことは、脾臓や心臓の大きさ、脂肪の量、大動脈弓等の個人差です。女性の御遺体においては子宮の大きさも三倍以上の大きさの子宮を持つ御遺体もありました。個人差がかなりあっても、それぞれの器官や筋肉等の行う役割は同じで、小さくても立派に働き続けることの偉太さは素晴らしいです。歯学という学問を学んでいる私達は、もちろん特に顔面から顎に至るまでの部分を詳しく解剖しました。解剖学の本に掲載されている図は、医学的解剖をされています。ところが、歯科医として本当に必要なのは、口から口腔内を見るということです。このことは教授に教えられたことなのですが、私達は、この事を念頭に置き、できるだけ口から中を観察することに努めました。口の中の神経や腺などは複雑で、脳の神経と同じくらい判別をつけるのが難しいものです。しかし、同時にいえるのは、その分、口腔内は繊細で様々な役割をもつものが密に存在している所だと言えます。口腔は、食物をとり込む、呼吸を行う、言語の発声を行うなどといったように人間にとって欠かせない

 

 

 

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