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医学生」へと己れを向上させることができるだろうか、といった様々な想いがないまぜになった結果であったように想います。そしてこうした想いを胸に、シーツを剥ぎ、生まれて初めてメスを握った瞬間から一生忘れることのない二ヶ月半が始まったのでした。

解剖実習は毎日午後一時から五時半までであり、週に二日は朝の十時半から同じく五時半までありました。実習が始まって一ヶ月経ったころには連日のハードワークに身も心も疲弊しきって、くじけてしまいそうなことも再三ありました。しかしその都度友人達や先生方、遠くに居る家族にはげまされ、何とか自分にムチを打って前へ進む事ができました。そして実習中僕を最も救ってくれたのは他ならぬご遺体でした。自分で勉強すればする程、上手に解剖すればする程、ご遺体は正に打てば響くかのごとく多くの事を僕に教えてくれました。ご遺体が教えてくれたものは教科書などに載っている机上の知識ではなく、そこに実際在る厳然たる「事実」であり「真実」でした。そしてこうした「生きた知識」の中に毎日没頭することは大変であった以上に僕にとって大きな喜びでした。

無論、ご遺体が僕に教えてくれたものは、医学の知識だけではありません。自分の未熟さを知りました。友人達との共同作業を通してチームワークというものの大切さを知りました。ご遺体とはいえ、医師を目指すものとして、初めて「人」を扱うことによって責任感が芽生えました。そして何よりもこれから医師になる者としての自覚、医学という学問

 

 

 

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