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献体なさった方の言葉を聞き取り、その方と会話することがいかに大切なことかを知ることができた。そして、自ら積極的に話しかけることで、知識だけではなく、より多くの様々なことを得ることができたように思う。

最後になったが、解剖実習に際して様々な指導、適切な助言を与えて下さった解剖学教室の先生方に、また、病に倒れてもなお、我々に学ぶ機会と多くの知識を与えて下さった方々に、心から御礼を申し上げたい。そして実習を始めた頃の初心と、六月の中だるみの時期に、雷のように私を撃ったあの想いとを、いつまでも忘れず持ち続けていたい。

 

母の死と解剖実習

 

武岡 康信

 

三ケ月にわたった実習が終わった。正直なところ、ヒトの体を解剖することに対して特別な思いはなく、初めてご遺体と対面した時も、緊張するよりもワクワクしていた。とにかく一つでも多くのものを見て、知識を増やすことが最も大切だと考えていた。しかし、その考えは大きく変えられた。

実習が始まった一月ほどたったころに母親が肺ガンで他界した。初七日を終えて学校に戻り、久しぶりにおじいさんの顔を見たときに、緊張して汗が出た。それまでのご遺体

 

 

 

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