水無月の雷
河合 秋典
四月から始まった解剖実習も、いよいよ今日で終わりだ。今年はカリキュラムの変わり目ということもあり、実習には不向きな蒸し暑い時期であったが、なんとか予定どおり終えることができた。長いようで短かったこの三ヵ月間に学んだことを、しっかりと頭と心に刻み込んでおこう。
最初の頃は「人の体にメスを入れる」ということそのものが大きな衝撃であり、実習時間の一瞬一瞬が緊張の連続であった。だが、やはり慣れというものは恐ろしいもので、二ヶ月もすると別段何とも思わなくなってしまった。しかし、脳を取り出す作業で、その「慣れ」は一気に打ち砕かれた。
取り出した脳を手の上に載せたとき、うまく言葉にすることができないが、「ああ、これがこの人の人生そのものなんだな。今、自分の掌の上に、一人の人間の歴史そのものがあるんだな」という想いが頭の中によぎった。三年前に亡くなり、半年前にこの実習室で解剖され、遺骨になって返ってきた祖母が、私に教え諭してくれるかのようであった。
そのときに、解剖実習で学ぶべきことが分かったように私には思えた。御遺体を見て知識を得ることは、医師を目指す医学生としてもちろん当然の義務であるが、それ以上に、