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象は生と死のはっきりとした違い、すなわち精神の有無と、客観的に死を捉えるということでした。

それから二年後、実際に解剖実習を行う立場に立った時に思ったことは、医学を志す者として最初の患者である御遺体からできる限り学ばせて頂くということであり、自分の目で見たことを脳裏に焼きつけておこうということでした。

今振り返ってみると、長いと思っていたのが無我夢中でしたので短く感じ、あっという間に終わってしまったという印象です。しかし、その中で得たことというのは講義や教科書から学ぶこととは違い、実際に触れることができて自分の目で確かめることができるという点で非常に貴重な財産となったと思います。御遺体の方の御遺志を無駄にしてはならないと肝に銘じつつ実習を行い無事終えることはできたというものの、最初の頃に飛ばし過ぎたためか、途中で予習が不十分で実習に臨んだことなどは反省すべき点であったと思います。

御遺骨をお返しした時、御遺族の方が「次は私の番です。」と静かにおっしゃっていましたが、御遺体の方と重なり感慨深いものがありました。この貴重な体験の機会を与えてくださったご遺体の方の尊い御遺志と御遺族の方々の御理解の厚意に感謝すると共に、将来医師になるにあたって、この体験を財産として立派な医師になるよう努力したいと思います。

 

 

 

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