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と、次から次へと「無言の教授」となられた方のことを考えていました。さらに、この方がどのような思いでご自分の身体を我々歯科学生のために捧げて下さったのか、ご親族はどれほどの決心で献体として送り出されたのか。私は、「この方の最後の人生を我々歯科学生に託されたのだ。私はこの方のご厚意を無駄にしてはならない。一生懸命頑張ります。宜しくお願いします。」そう心に決め、実習に向かいました。そして、「無言の教授」に失礼のないよう、実習の前後には、予習・復習と、知識の習得に夜の時間を費やし、実習では机の上では学ぶことの出来ない多くのことを教えていただきました。

私は、父方・母方を問わず祖父母と一緒に暮らした経験がなく、また、頻繁に会っていたわけでもありませんでした。私が学ばせていただいた「無言の教授」は、男性のお年を召した方だったので、実習でお会いするにつれ、私のおじいさんのような身近な気がしてなりませんでした。実際は私と会って話をしたこともない、まったく知らない方なのですが、生前にどこかでお会いしてお話しをしたような、そんな親しみを感じました。

私の親族で献体した方がいます。まだ私は高校生だったので、「献体する」と言ったそのおばあさんの心の内をその頃は十分理解することは出来ませんでしたし、医・歯学生がご遺体から何を学んで得ていくのかわかりませんでした。しかし、実際に私が実習を通して「無言の教授」に接する立場となり、献体したおばあさんの気持ちがわかったような、

 

 

 

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