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のお孫さんは私達と同世代であるはずだったのだが。)この人にはこういう生活があったのかもしれない、と思った。体に触れて触感を確かめなさい、と指示され、恐々手を延ばした時には御家族のことが、特に奥様のことが思われた。私が今恐る恐る触れているこの人の肩や胸は、その人にとってとても大切なものなのに。私の怖がっているこの人の体を抱き抱えて眠りたいと思っている人がいるはずなのに。三〇歳になる私には夫婦間でお互いがどんなに大切なものなのかが何だか察せられるような気がしていて、自分と同性である女性には感情移入し易かったためだろうか、しばらくは伯父さん御本人よりも奥様への感慨が強かった。

伯父さん御本人への感謝を改めて強く感じたのは五月の追悼法要の時だった。献体してくださった方のお名前が読み上げられた時、この中に伯父さんのお名前もあるはずだ、伯父さんは名前を持ち家族を持ち、自分の人生を生きて来られた人なのに、私は伯父さんのそうした人格を何も知らないままメスを入れているんだ、と感じた。献体をされる方は、そういったことを全て覚悟のうえで決断されているのかもしれないし、またプライバシーに立ち入られるよりは、匿名の一人のままで明日の医学を支える力となろう、と考えていらっしゃるのかもしれない。が、いずれにしろそれは本当に大変な決断だ。

実習の最終日、早かった、もっと実習を続けたい、という気持ちと、今日で伯父さんとはお別れだという寂しさとがないまぜになっ

 

 

 

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