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メスを入れ皮膚の下から脂肪が見え始めたとき、″ああ、人間なんだなあ。人の体を解剖させていただいているのだなあ。″と感じ始めた。筋を解剖し始めると、一年生の頃参考書を見ながら、全く実感なしでひたすら紙に書きながら覚えた筋が、実際参考書と同じように観察できると、次第と実習が興味深くなってきた。内臓を解剖し始めると、その大きさなどが参考書とかなり違うご遺体もあり、実習の大切さを痛感した。

私の班は顔面や頭部の解剖も順調に進み、片方の眼球を取り出し解剖・観察することが出来た。眼球を支配する筋と視神経が参考書ととてもよく一致しており感動したのを覚えている。だが、眼球を取り出したときのショックもまた大きく、その夜、自分の親を解剖をしなければならないという様な夢まで見た。

人間である私たち医学生が、同じ人間の体を解剖させていただく事は、とてもありがたく貴重であり、その分得たものは知識のみならず精神的にもとても多かった。

献体していただいたご遺体にだけでなく、その意志に理解を示していただいたご遺族の方にも感謝の気持ちを忘れず、後期の実習にも臨もうと思う。

 

痛み

 

縣 秀樹

 

同じ人間にメスを入れ臓器の複雑な構造

 

 

 

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