出して行く瞬間、剖出できなくて迷い考える時、他のご遺体と比較検討し人と討論している時など、あらゆる瞬間が貴重で、この上ない経験と学習の場であることがひしひしと実感された。
特に自分にとって印象的だったのは、時々刻々流れ行く時間と共に、人の身体の精密かつ神秘的な構造が現れては消えて行くように感じられたことであった。これはまるで豪雨のようにあふれて、自分が吸収する間もなく通り過ぎてしまうようであった。本でいくら知識を詰めこんでも、実習でどれほど完全を期した積もりでも、実際の人間はそれを遥かに凌ぐ果てしない存在であり、自分がのめり込む程に、ますます遠いものに感じられた。この様な世界を前にして、自分がどうやって解剖、あるいは医学を学んで行ったらよいかすら分からなくなることがよくあった。
こうした経験の全て―一つ一つの名前を覚えること、解剖実習の苦労や悩み、さらにそれを克服して医学に対する探求心に変えて行くことなど―が自分がこの実習で学んだことである。
こうした機会を与えて下さった方々、献体して下さった方々、ご遺族の方々、また様々な裏方として篤志を以て協力して下さった方々に心から感謝します。そして又、実習に際して迷ったり勇気を失ったりしている我々を暖かく導き、勇気を与えて下さった先生方に心から感謝します。
今回の実習で、単に知識の習得のみならず、個々の人間性と深く関わり、その中で進