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一歩で、これからの人生の土台となるものです。私はこの解剖を少しも無駄にしたくなかった。この解剖を土台として、将来、自信を持って医療を行い、多くの人々の健康のために、働きたいと思いました。献体して下さった方々の意思を自分なりに引き継ぎたかったです。どこかで献体して下さった方の魂が私を見ている様な気がします。そして、できるだけ献体して下さった方が、献体して良かったと思える様に解剖実習をしました。三ヵ月、必死ですごしました。今日で解剖は終わりますが、この知識を更に、どんどん大きく増やし、立派な医師になりたいと思います。

 

「与える」ということ

 

菊池 智映

彼は巧みなまでに精細なからだを持っていた。父よりも若く見えたことが印象に強い。50代も初めだろう、一家の主として働く肉体労働者だったのだろうか。彼は深層にまで渡って大きく発達した筋肉を持つ、実にがっちりとしたからだつきの男性だった。その凛々しい層の下に刻まれていた目尻のしわは、彼の笑った時のその表情を思い浮かべるにはそう難しくない笑顔の刻印だった。彼は心、感情を持った人として生き存在していた。喜びに、悲しみに涙することもあったで

 

 

 

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