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「健康体で献体」

今田享三

献血は六十四歳までである。私は「献」という言葉に対して、特別な意識はもっていなかったし、健康マラソンの合い間だから献血回数もわずかではあったが、それでも献血資格がなくなった時、なにかを失ったような気分になった。そんな折に新聞で献体なるものを知った。献眼・献腎も大事だが体の一部分よりも、体全体が役立つならばという、小さな気負い程度で登録させてもらった。

みなさんが考えておられるほどの重々しい心境からではなかっただけに、いざ会員証を頂いて時間がたつにつれ、はじめて「死」というものを考えるようになった。ことに医学生の「解剖学実習を終えて」の感想文を読ませてもらい、「献体」するという意義の重大さに気付いた。つまり医学生の教材となるのだから、新鮮な健康体でなければならないと思う。しかし人間とは簡単に健康体で死ねるものなのだろうか。

あるお寺での講話で、「よい死に方をするには健康であること」と聞いた。よい死に方とは……。私は一瞬考えた。多分だれもが望んでいるであろう畳の上でころっと逝くことだと思う。幸い私は十数年来健康マラソンをやっていて、まあ健康であると自負している。足と心臓だけは自慢出来るはずだ。と、冗談はさておいて、今の私は精いっぱい走り、精いっぱいに生きることが「健康体で献体につながる」と信じて日々を精進している。

白菊会の総会で「来年も元気でお会いしましょう」と締めくくられたのは、嬉しくてさわやかだった。

 

 

 

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