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献体が教える医の倫理

良い医師・歯科医師の育成のために

今日ほど「医の倫理」が強調され、「良医」の育成が強く要望されている時はありません。学生たちが専門の勉強をはじめるに当たり、「人体解剖学実習」で、「良い医師・歯科医師になるために、自分のからだを使って十分に勉強して下さい。」という願いをこめて献体されたご遺体によって学習をすることにより、学生たちは、人体解剖学の知識の習得と同時に、献体に対する感謝の気持ちと、その期待に応えなければならないという責任と自覚をもつという点で、大きな精神的影響を受けています。

献体の最大の意義は、「自らの遺体を提供することによって学識、人格ともに優れた医師・歯科医師を養成するための支えとなり、次の世代の人達のために役立とう」とすることにあります。

 

献体運動のはじまり

「人体解剖学実習」が、医学・歯学教育のなかで、もっとも大切な基礎となる過程といわれながら、実際にはこの実習に必要なご遺体が極端に不足した時代がありました。

それには、いろいろな理由がありますが戦後、医学も歯学の大学が増設され、学生数がほぼ倍増したことが大きな原因の一つにあげられます。文部省基準の解剖体数の10分の1にも満たない大学すらあり、医学教育の危機が叫ばれておりました。

昭和30年代に入り、医学教育の危機的状況を憂えた方がたが、少しでもお役に立つことができるならば、と献体を思い立ち、大学に相談されたことがきっかけとなって献体運動が始まりました。しかし今日では、献体運動はたんに教育用ご遺体の不足解消に役立ったというだけでなく、前述のように、医師や歯科医師となる者の倫理教育という点で極めて重要な意味をもってきています。こうして、初めは極く少数の善意の人々の集まりであった献体運動は、より多くの人々に支えられ、献体の輪が次第に拡がってきました。

献体登録の現況

現在、わが国には献体篤志家団体が55団体あり、北海道から沖縄まで、献体登録者の総数は160,000名を越え、そのうちすでに献体された方は約46,000名に達しています(平成9年3月現在)。わが国の医学・歯学の大学で行われる解剖学実習への貢献は大なるものがあります。最近、献体登録者数は増加の傾向にあり、実習だけでなく、医療・医術の高度化のために必要な若手医師・歯科医師の臨床解剖学的な研修などにも使用させていただいております。

 

「献体に関する法律」について

昭和54年の秋に、日本学術会議は内閣総理大臣にあて、〈献体登録に関する法制化の促進について〉という勧告を行いました。法制化の実現は医学教育における献体の意義を国が公けに認めることになり、重要な意味を持ちます。この勧告をきっかけとして、国会でも献体に関する論議が始まり、昭和57年度からは献体者に対する文部大臣からの感謝状贈呈が行われるようになり、また「医学および歯学教育のための献体に関する法律」が、昭和58年5月に国会で可決成立し、同年11月25日に施行されました。

 

 

 

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