家庭問題情報誌『ふぁみりお』第11号から抜粋
共同親権から単独親権になっても
-子どもがいる夫婦のための離婚セミナーから-
未成年の子どもがいる夫婦が離婚をする場合は、親権者を父母のどちらにするかについて話し合いをしなければなりません。このことは、父母のどちらか一方が、親権者になるのをあきらめることを意味します。今回は、FPIC連続セミナー《子のある夫婦の別れ》のなかで、ときに最も痛みを伴う「共に親であることとの別れ」(本誌第7号6頁参照)について考えてみましょう。
離婚をするということは、共同親権者であった一人として、親権の有無にかかわらず、新しい親子関係の出発点に立とうとしていることなのです。
子はだれのもの
以前は、子どもは家のものという考えが強かったために、昭和20年代までは、父が親権者になる場合が大半でした。家を出た母は、経済力の弱さもあって、木陰からわが子の姿をそっと眺めるのが精一杯という時代が長く続きました。核家族化が進んだ昨今では、子どもは家のものという考え方は後退しました。最近の統計によれば、父が親権者になった場合が22%弱、母が親権者になった場合が73%弱、きょうだいを父、母で分けあった場合が5%強となっており、数字の上では母が親権者となる割合が圧倒的に多くなっています。とは言っても、なかには、「離婚してくれるなら親権はおまえにやる」と離婚に応じさせる条件にしたり、「そんなに親権者になりたいのなら養育費の請求などするな」と話をすり替えようとするなど、真に子どものことを考えて話し合うというよりは、親自身の勝ち負けの感情や損得の論理が先行している場合も見られます。子は家や親の所有物ではないということを、頭を冷やしてよく考える必要があります。
親権は子のための親の義務
親権の内容には、?@子の監護及び教育をする権利・義務、?A必要な範囲で子を懲戒する権利、?B子が職業を営むことを許可する権利、?C子の財産を管理する権利、?D財産に関する法律行為について子を代表する権利などが民法上示されています。これを見る限り、親権者となった親は絶大な権利を与えられていることになります。しかし、これらは、子を親の支配下に置く権利というよりは、子を健全に育てる責任を果たすために親に与えられた権利であって、子が成人するまでの親の責任と義務であると考えるべきでしよう。
また、親権者が決められても、その後、親の監護能力や子の状況などが変わった場合には、家庭裁判所の調停や審判で親権者の変更をすることができます。
合意を阻む不信感
離婚することに双方異存がなくても、親権者をどちらにするかについて合意が得られないときは、協議離婚はできません。家庭裁判所の調停で話し合うことになります。家庭裁判所では、双方の主張を聴き、子どもの意向や養育環境の調査なども行って、実情に即した妥当な合意が得られるように調停を進めます。子どもが幼い場合には、なるべく現在の環境を変えないのが望ましいと考えられています。慣れ親しんでいる世界を子どもから奪うことは、子どもの心に大きな喪失感を与え、基本的な安心感の発達が阻害されるおそれがあるからです。きょうだいを離ればなれにさせることも、同じ理由から避けるのが望ましいと考えられています。
双方が、「あんな相手に親権を渡したら子どもまで悪い性格になってしまう」などと不信感をあらわに激しく対立して譲らないときには、離婚の調停は成立しません。地方裁判所で裁判をすることになり、なかには親権者の適否の鑑定まで求めて争うケースもあります。
子はどちらの親からも愛されたい
単独親権になっても、子どもの権利がこのために半分になるわけではありません。子どもは、いつも、両方の親から愛されることを望んでいます。親は、まず、このことをきちんと受け入れましょう。たとえ結婚には失敗しても、また、生活や姓は別々になっても、かつての配偶者を《親同士》というパートナーとして見直す作業を始めましょう。親権の有無を超えて築かれる新しいパートナーシップを、子どもは何よりも望んでいます。