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家庭問題情報誌『ふぁみりお』第8号から抜粋

感情整理と自分の立直し

-子どもがいる夫婦のための離婚セミナーから-

 

離婚が挫折や敗北でなく、真に新しい生き方の出発となるためには、離婚に至る過程で片付けておかなければならない課題があります。前号では、それを「六つのわかれ」として紹介しました。本号では、最も大切でありながら最も難しい「感情の整理と自分の立直し」について述べてみます。

 

感情整理-なぜ必要?

長い間夫婦の葛藤に苦しんだ末に離婚する人のほとんどは、相手に問題があると感じて、相手の非を咎め、怒り・攻撃・拒否の感情を強く持っています。やむをえず離婚を受け入れなければならない人の場合には、裏切られた怨み・傷つき・見捨てられといった感情や、生活に対する不安が強くみられます。そして、双方とも自分の側から見た主観的感情や思い込みの部分があることには気がつきにくく、ときには自分の感情に絶対的正当性を感じているようです。

しかし、このような感じ方は、相手との関係を敵対的な勝ち負けの関係にしてしまい、完全な勝利を得るためにどこまでも続く不毛な争いを引き起こしやすいものです。また、いっときは勝った、解放されたと思っても、離婚してから相手に対する罪悪感がでてきたり、あるとき突然自信をなくして落ち込んでしまったり、新しい生活にも勝ち負け意識を持ち込んでストレスを強め、体調を崩したり、子育てに力が入りすぎたりする人が少なくありません。

再出発の名にふさわしい離婚を望むなら、意地や勝ち負け意識でなく、もっと相対的、客観的な見方で相手との関係を見直してみる必要がありそうです。

 

夫婦関係の見直し-どのように?

では、具体的にはどうすればよいのでしょう。たとえば、夫婦の歯車が噛み合わないのは相手の悪意や不誠実によると感じたら、その水脈を遡って次のような原因を探してみてください。

?@二人の結婚観、結婚動機

将来にむけての展望や家庭像が描けないのに、適齢期意識、実家の家族葛藤からの逃避、妊娠等、結婚があいまいで消極的な動機から出発したためではないか。

?A夫婦固有の生活習慣・文化の末形成

双方が実家の習慣をひきずったまま、夫婦の新たな習慣をつくることも、一方が譲ることもできなかったのではないか。

?B男女のライフサイクルの違いについての無知

女性の産前産後、更年期、男性の定年期等について、相互に理解不足だったのではないか。

?C未解決の心理的問題

癒されないまま抑圧している心理的外傷があって、認知や感情にゆがみが生じているのに、それに気づいていないのではないか、等と。

相手の責任と思われた原因を、このように客観視することができれば、葛藤は善悪や勝ち負けを決することで解決するような性質のものではないことが理解されるでしょう。その結果、未熟さや努力不足を双方が気づき、未完成の結婚として関係修復の方向へ転換できる場合もあります。すでに亀裂が大きく修復できない場合でも、怒りや怨みによる敵対感情を軽減して、お互いのミスマッチであったという認識で離婚することができるでしょう。

損得を考える現実的な判断によって、選択できる最善の方法が離婚であったと納得できれば、それもひとつの感情整理の仕方であると考えられます。

 

自分らしさの立直しを!

それでもなお、離婚は、人の心に傷を負わせずにはおきません。離婚が自分を大切にして生きるための出発点であることを確認しながら、自分らしさの立直しを図らなければなりません。親が立ち直ることは、親の気持ちを読み取りながら育っていく子どもの、元気と安心の素でもあるのです。

離婚のストレスからくる心身症や、相手や子どもという対象を喪失した後の悲しみへの手当て、あるいは、傷ついた自尊感情の回復や別れた相手へのゆるしのためには、医師やカウンセラーの援助が必要なこともあるでしょう。一人で悩まず気軽に相談してみることをお勧めします。

 

 

 

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