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3 「ナイト・サファリ」と「アドベンチャーワールド」にみる、夜間開園の展開「シンガポール動物園」の沿革

1960年代、当時のシンガポールの議会において、国立公園を拡大する際に動物園を建設する構想が持ち上がった。1968年、オン博士の研究により、動物園はレクレーション、社会教育、旅行者のアトラクションそして環境保護施設として重要であるとされた。その年の末から政府によって28ヘクタールの森林が開発され、60ヘクタールが将来の開発に備える目的のために保存された。そして、1970年7月27日に「シンガポール動物園」は開園した。

「シンガポール動物園」においておこなわれている、「無棚放養式」の一つの形態である、「オープン・ズー」という理念に基ずく動物園開発も、ドイツのハンブルグに建てられたカール・ハーゲンベックの「ハーゲンベック動物園」において初めて試みられたものを基礎としている。この形態に従うためには建築物を壊し、新たな施設を建設し、動物を移転させるなどの予算が必要である。しかし、旧来の動物園では収集した動物を維持することに努めるばかりで、動物にとって必要な面積を普通の檻に比べて5倍の面積が必要な、「無棚放養式展示」に割くことは難しかった。

「シンガポール動物園」は広大な土地を所有していたことを幸いに、「オープン・ズ―」を造り上げることができた。「シンガポール動物園」での「無棚放養式展示」は水堀と空堀によりヒトと動物を区切る形を基本にデザインされている。「オープン・ズー」という堀とフェンスにより動物を囲い込む形式の結果、それぞれの動物の自然な振る舞いに適応した状況を再現することができるようになった。つまり、動物がその欲求通りに振る舞う自然の姿を観客に見せることができるようになったのである。展示場内の自然環境の再現には、生木に加えて人工素材により造られた偽木や偽岩が用いられている。軽量ファイバーグラス、コンクリートで強化されたグラスファイバーなどの人工素材を用いることで岩や土地をより実物らしく造ることが可能になった。

「シンガポール動物園」においておこなわれている展示には「精神的拘束(psychological restraint)」という考えが利用されている。それは危険などを避けるために必要な観客と動物の間の障壁を壁などの物質的に存在するものではなく、精神的な壁を動物に対して創りだし越えることのできない障壁とする考えである。それらには動物の生態に関する知識にもとづき、その動物が持つ水に対する恐れを利用する場合や高さに対する恐れを利用する場合、テリトリーの感覚を利用する場合もある。「シンガポール動物園」の目指す究極の姿は、動物たちの基本的欲求(恐怖から逃れるためのスペース、隠れ場所、餌、仲間など)を満足させることにより、動物の逃避欲求を失わせることである。また、動物を忙しく、楽しませることで、観客にとってより興味深い状況を造ろうと試みているのである。

 

「ナイト・サファリ」

シンガポールでは毎日ほぼ19時半に日が沈

 

 

 

 

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