観光形態を考察の中心に据えることにより、複雑に絡み合って存在する現代の観光が抱える課題に対する一つの接近を試みてきた。
最後に、実際にエコツーリズムの概念を導入して観光地の開発を進めていく際に焦点となるであろう今後の課題について若干示唆し、結語としたい。
第一に、地元コミュニティーへの対応が挙げられる。エコツーリズムにおいては観光と地元のコミュニティーとの密着度が比較的高くなることは避けられない。そのため、地元コミュニティーに対しては、観光に関わることを望むのかどうか、あるいはどのように関わるのかについての決定を行う機会が具体的な計画策定が行われる以前に与えられる必要がある。さらに計画策定の際にも地元コミュニティーの意見が重視されなければならない。このような観光地の計画策定の意思決定プロセスへの地元コミュニテイーの組入は、エコツーリズムを導入した観光開発の実践において重要な課題となっていくであろう。
第二に、計画策定に際してはステークホルダー(stakeholder)に対する判断基準の設定も忘れてはならない。観光開発の計画策定の際にどのようにステークホルダーを考慮することが「適正」であるのかという基準を設定すること、このことが今後のエコツーリズムを含めた持続可能な観光の実現にとつて最も重要かつ困難な点となる可能性は高い。
観光地の開発は、世界中の多くの異なった社会的・政治的状況において行われている。そのことは、ある場所では機能している開発の方式がそのまま他の場所に適用できるとは限らないことを意味する。とりわけ、環境への対応については将来に向けての姿勢や展望の長短などによっても異なってくる。したがって、観光産業がこれから「持続可能」という立派な理念を掲げていくとしても、それに伴ってその実現のために有効な実践手法が確立されなければ、観光地の開発の現場において役立てていくことはできない。このような認識の下に、上記の今後の課題はこれからの研究対象として取り組んでいきたい。
注1 1950年には国際観光客到着者数が2,528万2,000人で国際観光収入が21億米ドルであったのが、1990年には4億5,835万7,000人で2,601億ドルにまで拡大している(国際観光振興会『国際観光情報』国際観光振興会、第280号、1996年、1ページ)。F世界観光機関(World Tourism Organization;WTO)の予測では、1990年代の年間平均成長率は3.8%で、2000年の国際観光客到着者数は約6億6,000万人、2010年には9億3,700万人へと増加を続けると見られている(World Tourism Organization,Global Tourism Forecasts to the Year 2000 and Beyond,Vol.1,World Tourism Organization,1995,p.35)。
注2 旅行会社が主として団体旅行という形態で集中的に送客を行うことで旅行商品の低価格化を実現したために生じた、観光の大衆化および大量化という現象のこと。
注3 Brian Archer and Chris cooper,The positive and negative impacts of tourism,Global Tourism:The next decade,William Theobald(ed.),Oxford,Butterworth-Heinemann,1994,p.73(「観光のプラスとマイナスのインパクト」玉村和彦監訳「観光の地球規模化―次世代への課題―」晃洋書房、1995年)。