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の方が望ましいのではないだろうか注41。すなわち、それを自然に関連するあらゆる観光に適用できる原則と幅広く捉えて、より多くの対象に当てはめていく方がより意義があるように思われるのである。自然地域における個々の事象を取り上げるのではなく世界中で行われている観光活動を視野に入れるならば、エコツーリズムという観光形態の存在をそのような捉え方で利用していく方が、観光が引き起こす自然環境に対する悪影響を全体として軽減することに結局はつながっていくのではないだろうか。エコツーリズムをこのように観光と自然資源の保全と文化のバランスを取ることの原則として受けとめれば、その役割には制限がなくなる。エコツーリズムを導入した自然地域での小規模な取り組みで得られたノウハウや技術が、より大規模な観光地において幅広く適用されあらゆる他の観光形態に取り入れられる可能性も出てくるからである注42。このように考えれば、エコツーリズムとは今後自然資源を持続的に使用しなければならないという課題を持つ観光産業がその解答を見つけ出していくための言わば「実験台」としての役割を果たしうるものである、と言えよう。

以上、エコツーリズムの検討を行って得られる本論文の結論は、次のとおりである。

エコツーリズムという観光形態の起源は、従来のマス・ツーリズムを中心とした観光と自然環境との関係に求めることができる。しかしその存在の意味するところは単に観光と自然環境の保全という次元にとどまらず、これからの観光のあり方の検討に関して大きな意義を持つと言える。すなわちエコツーリズムは、将来に向けて存続していくためには持続可能であることを目指して観光地の開発を行っていかなければならないという義務を背負った観光産業が、そのためにどのような方策を採らなければならないのか、あるいは採ることができるのかという問いかけに対する解答を追求しているものと位置づけることができる。そして、このようなエコツーリズムによる「模索」を可能とするためには従来のマス・ツーリズムへの対応を前提としている観光形態の存在も必要とされる。その一方で、エコツーリズムが行う様々な試行錯誤から得られた果実をそのような観光形態に対してもフィードバックしていくことによって、観光産業全体の既存の手法の改善を図っていくこともまた同時に可能となるのである。したがって、エコツーリズムという観光形態は、このような一連の動き―観光産業全体への「エコツーリズム的視点」の導入―を通じて、「持続可能な観光」と呼びうるものの実現に寄与するという役割を担っていると言うことができよう。エコツーリズム、およびその持続可能な観光に向けての模索とは、観光がこれから21世紀に生き残っていくための必然なのである。

 

3. 今後の課題 ―結びに代えて―

本論文は、エコツーリズムという新しい

 

 

 

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