構築することは容易ではない。その実現には、政府・地元自治体・民間企業・地元住民。NGO等の相互協力が不可欠であるため利害調整が困難であろう。また、条件となるシステムの運営形態や財源、規制の適用範囲をはじめとして、ある地域に適切だった方法が他の地域に当てはまるとは限らない。エコツーリズムによる影響の予測を事前に正確に見積もることができるかという技術的な問題も残っている。第三に、仮に上記の項目を満たした上である自然地域においてエコツーリズムを導入した観光開発を行うとしても、その観光地における観光客の収容力は比較的低くならざるを得ない。観光対象とする自然資源を持続可能にするというエコツーリズムの最も基本的な目的を達成しようとすれば、大規模な開発は避けなければならないし、一度に受け入れることの可能な観光客数は自ずから限定される。一力所で大量の観光客に対処することは、エコツーリズムという観光形態を導入している限り不可能である。
したがって、全体として見るとエコツーリズムでは現代の大量の観光需要に対処することができない。エコツーリズムは、マス・ツーリズムの急激な拡大によって生じたこれまでの観光の問題点を質的には克服する可能性を持っているかもしれない。しかし、量的な制限があるということは現代の観光形態としては限界があると言えよう注34。
以上、?章においては、エコツーリズムについて理論的な側面からその性質を検討を行なってきた。その本質的な目的と条件、並びに限界を明らかにする過程で、エコツーリズムはこれからの観光のあり方の一つの方向を示しているようであるが、問題解決の万能薬ではないことを示唆することができた。そこで?章では、このようなエコツーリズムの持つ性質を踏まえた上で、現代の観光におけるその役割について考察していく。
?章 現代の観光におけるエコツーリズムの役割
1. エコツーリズムとマス・ツーリズム
これまでエコツーリズムを扱った論文においては、エコツーリズムをマス.ツーリズムに対立するものと位置付けて描く場合がしばしば見られてきた注35。しかし、確かにエコツーリズムはマス・ツーリズムがもたらした好ましくない結果への反省から生み出された観光形態であるが、エコツーリズムをそのように単純に捉えることができないことは既に?章において論じてきたところである。このように見てくるならば、現代の観光におけるエコツーリズムの役割を提示するためには、まずマス・ツーリズムとの関係を明確にする必要があるようである。そこでここでは、エコツーリズムとマス・ツーリズムとがお互いにとってどのような意味を持ち、どのような関係として位置づけられるのかを検討する。
最初に、マス・ツーリズムにとってのエ